終点まで

終点まで、終点までと列車を乗り継いで北へ向かう。
「しゅうてーん。つぎしゅうてーん」車掌さんが声をかけてくれて起き上がると、広い車両はがらんとして新緑のシャワーが窓の外を走る。
列車は大きく曲がり角にさしかかり、きしむ音が寝不足の顔に響く。
単調な振動のペースが少しずつ少しずつゆっくりと。電車は停まった。

ホームの端っこに一人立つと、広い風景が自分を包んでいた。
空想が続いていて、時々白一色に視界は奪われる。
錆びたレールの匂い。
風の匂い。

改札にも、小さな駅舎にも人はいない。

そして僕はこの香りを届けるため、硬貨を入れて、閉ざされた切符売り場の隣の、古い公衆電話のダイヤルを回す。
ジーっという音。
電気は東京まで突っ走る。
「ねえ、今僕がどこまで来たか当ててみてよ。そして、昨日読んだ本の名は?次はどこに行こうとしてる?次は―」

いつもこうやって生きて来たようだ。
自分で答を出すのはあまりに難しい。
人生はあまりにミステリアス。
自分の中で何かがすでに始まっているような、いや、全く昔から何にも変わっていないような。

自問自答は苦しい。

夏は動いている。そしてこの僕は?
この苦しさがらせん階段を登る苦しさならいいのに。
それなら、同じ風景からいつかは解放される。
そして下界にすべての人々の心が、そして自分の心が鮮やかに見下ろせたなら、その時僕は煙になっているのかも。
 
 さあもう大丈夫
 汽車の線路を探すんだ
 さあもう大丈夫
 線路に耳をあてるんだ
 
 そんな風に考えてはいけない
 誰にも君の明日はのぞけない
 天国は君の間近に
 でも扉をたたくにはまだ早い