暑い夏だった


暑い夏だった。

軽井沢の小瀬温泉近くのキャンプ場で一週間を過し、僕達はまた重いリュックを背負い、山路へ入って行った。来年はもう四年、なのに相も変わらずこんな無目的なことを繰り返していた。疲れたら休み、眠くなったら適当な所にテントを張る。厄介払いされるのは嫌だから、朝早くテントをたたんでは移動した。
 山を登り切った辺りから浅間山が見えてきた。白い噴煙をもうもうと上げて。社交家のノナカが、果樹園らしき所でお爺さんと、親しげに話し込んでいる。聞くとはなしに聞いた悲しい話。あの浅間山の頂上にはゼロ戦の残骸が残っているというのだ。出撃しても敵に逢わず、あるいは飛行機が故障し、何度も基地に帰還した若い特攻隊員が、中傷に耐えかねて、故郷の家や小学校の上を二度三度旋回した後に小さい頃から見て育った浅間山に自爆して果てたというのだ。
 その頃派手なパフォーマンスで若者達を飛行場で見送り、「俺も後に続くからな」と繰り返した将軍達は、元気に遺族会にやって来てはお悔やみを言い、酒が入るとかつての部下達に酌をさせ、軍歌を歌ったのだという。

 静かに語るその老人が何者なのか、山上に散華した青年とどうつながるのか。わからなかった。ノナカは「そんな、許せんよ」と大声を出した。ただ僕は二人の話し声のするそばで寝っ転がって、ただ黙って白い噴煙を眺めていた。その頃の僕は遠い過去のことなどどうでも良かった。ただ来るべき自分の未来のことばかり考えていた。
 汗が噴出していた。あの日…。


 ときどき戦闘機が堕ちてくる街に今日は朝から雨がしとしと
 黝んだ水溜りを飛んだ少女はとっておきの微笑ぽつん
 旧いふぃるむのようなざぁざぁ雨に戦車のような 黒雲びゅうびゅう
 人攫いの夢に怯えた少女はいっちょうらの涙をぽつり
   あしたてんきになあれ
   あしたてんきになあれ

 さっきまで駆逐艦の浮んでた通りにのっぴきならぬ虹がかかった
 その虹で千羽鶴折った少女はふけもしない口笛ひゅうひゅう
   あしたてんきになあれ
   あしたてんきになあれ