雨がふりそで

雨が降りそで降らない夕暮れだった。
自転車のタイヤはぺちゃんこだった。
ふらふらと葉書片手にバス通り。
「ハンバーガー」ののぼりがひらひらしているのだから風はあるのだな。
店から祖母ちゃんが紙袋を大事そうに抱えて出てくるよ。
何を買ったのさ。
駅の郵便ポストは放置自転車が邪魔をしてなかなか手が届かない。
どうせ当たらないんだからやめておけ、と一杯やったか赤い顔して仏頂面だ。
懸賞葉書を出すのは今月五枚目か。
中古CD屋の店先の3枚500円の棚の猿岩石の隣に恭蔵さんのアルバムが!いったい誰と抱き合わせで売られて行くんだ!
細い路地を抜けた所で雨の待ち伏せ。
図書館に逃げ込むと、入口近くの長椅子は家にいられない鼻水垂らした常連の爺ちゃん達のさみしい横顔で埋まっている。
カンガルー止めを付けた4WD車をヘッドライトつけっ放しで玄関脇に強引に横付けしたのは派手な赤シャツの中年男だった。
入って来るなり迷惑なんだよって露骨に嫌な顔で無抵抗の爺ちゃん達を一瞥すると、ガイドブックのコーナーで『地球の歩き方』をいじっている。
どこへでも行っちゃいなよ。

いたたまれずに駅に戻ると、若い女の子が傘も差さずに懸命にちらし配りをするのだが、誰もがかたくなに押し黙って通り過ぎるものだから、「メガネ店オープン」のチラシは雨に濡れてぐしゃぐしゃだ。
いつまでも来るあてのない客待ちのタクシーがいつのまんか長い列になって、運転手達はぽかんと口を開けてそれを眺めている。
ミルクコーヒーの色をした川を渡って小学校の塀沿いの坂道を登っているとちらっと見えてくるジャングルジム。
いつも誰かが泣いているような気がして、暗闇の中、つい人を探してしまうのはなぜ?

 夜中に雨が降り出した
 赤く錆びた自転車が道に放り出されている
 道に放り出されている

 あーあ何もかも
 何もかもがさみしく見えるよ
 雨の中の夜の街 夜の街

 何もかもさみしく見える 
 だってこんな夜更けに一人で部屋へ帰るんだもの
 部屋へ帰るんだもの