空港から、人の流れを避けて外へ出た。
四月半ばだというのに、居座った寒気団、休日だからがらんとしたバス停に風の冷たさが吹き抜ける。だーれも乗客のいないバスが暗闇を這うように進む。マスクをした運転手の後姿が、対向車のライトを浴びて影のように動かない。
伸びたテープの声が繰り返される。答える者はいない。街頭に浮かぶ夜桜が窓の向こうに残っている。そしてその向こうの寂れた埠頭。どうも景色が違う。バスはどこへ行くのか。西へ西へと行くのか。以前この路線バスに乗ったことがある。その時は、合宿帰りでサークルの仲間と一緒だった。たまたま羽田神社の祭の日にぶつかって、バスはのろのろと進んだ。バスはひどく混んでいたが、神輿や化粧したはっぴ姿が映画のように展開していた。
でも、僕の頭の中は真っ白だった。隣の席に座っていた後輩の女の子が僕の手をじっと握っていたのだ。仲間達は勝手にぺちゃくちゃおしゃべりしていたが、一体何を話していたのか。みんなの口がただぱくぱく動いていたことしか覚えていない。白昼夢を破ろうとしてか、籠に入れられた子犬がバスに向かってしきりにほえていた。あの日のことが急に懐かしくなって、僕は再びこのバスに乗ったのだろうか。過去を捨てきれない自分が恥ずかしい。
バスは相変わらず走り続けている。眠気が襲って来た。途中下車する気力もない。このまま終点まで行くことになるだろう。そこがどこなのか。あの日なのか。わからない。
心の片隅に閉ざされてたやさしさをあなたが思い出させてくれた
短い夜だった 話すことよりそばにいるそれだけで確かめあうふたり
街は二つのかげを深い眠りの中に 人の目にはうつらないように
やさしく やさしく つつむ
ああ ふれあった唇に
恋という名のささやきを
あなたが思い出させてくれた
忘れかけてた人の心の温もりを せめて今は感じていたい
それが それが 愛さ
ああ 生きているもつれ合い
もがきながら今日もまた
どこかで息づいてる命