夢はあるの?

 「夢はあるの?」そんなことを突然に言われたらどうする?

 桜咲く隅田川の川岸。その日クラスメイトのMさんと僕は改装工事が終わったばかりの桜橋を渡り、はとバスのお客たちに混じって餅か何か食べに行った。
 帰り道。
 川沿いのコンクリートの堤には、無数のカップルたちが等間隔にどこまでも続き、その背中を見ながら二人はただ黙って駅の方へ歩き続けた。どんな桜並木だったか、思い出せない。覚えているのは、Mさんの「夢はあるの?」という突然の言葉だった。きっとちゃかした言葉しか返せなかったと思う。
 なぜなら、その日以来Mさんは僕から離れて行ってしまった。

 夢。

 人はバクのように夢を食って生きている。
 夢。人はその言葉を唱え、信じ、現状の悲劇に耐えていく。
 夢。人を叶える人って一体何人いるのだ?
 夢。夢夢夢夢。
 国語教師の宿命か、時にこの言葉をホワイトボードに書く。そしてもっともらしく夢について説教を垂れるのだ。あの頃はきっと夢を持っていたはずさ。
 あの日の花びらのように。でも、土砂降りや強風に遭って「貯金たまったらハワイ行く?」みたいに色あせてしまうのか。

 「がんばってる君たちにはきっと春は来るよ」と高三生に話しておきながら、本当にそうなのか。
 わからない。
 もっとも、冬が長ければどんな桜だって美しい。夢。ゆめ。ユメ。夢…。



 扉を開けたらいつもの笑顔 約束だから散歩もしよう
 夢は消えたんだそよ吹く風邪よ 人は悲しいね
 
 季節が僕を運ぶ 一日を抱きしめながら
 この肩の重き罪を 明日はとき放て

 だから明日に向って走れ こぶしを握りしめて