「ボロロック」発売に寄せて オクノ修ライブ印象記

♪ 何もないはずなのに なぜか心騒ぐ 春の陽を浴びてただ 歩いているだけなのに ♪


 オクノ修さんのライブに足を運んだのは、もうかれこれ半年前。高円寺の「円盤」で、確か「OZディスク vs. オフノート」の対抗戦7番勝負の一環として、03年12月の10日に行われたものだった。

 各種ライナーノーツ等で密かに敬意を持つ田口史人さんから、eメールや郵便でマニアックなお誘いの数々を頂きながら、あまりにも怪しげな気がして、一人では怖くて行けないスポット<笑>だった。そこで、いつものHさん(当HP主宰者)にご一緒願う。

 オクノさんは、3年程前に知ってから、急速に好きになったフォークシンガー。ロック・サイケ色の強い過去の名盤も数々あるが、やっぱり最近の(高田渡の推薦文が似合う)「フォークシンガー然」としたオクノさんが最高だと思う。
 
 思えば03年9月に京都に行った時に、六曜社の地下店を訪ね、マスターであるご本人にお会いした。と言っても、客としてカウンター越しに対峙した訳だが、本当にそこに居て、手際良く珈琲を淹れていらっしゃるのを目の当たりにして、感慨深いものがあった。普段禄に珈琲を飲まない私だが、名人振りが分かる気がしたし、実際美味しかった。
 
 実は最新アルバム「唄う人」をMDに入れて、清水寺とか南禅寺とかを周りながらずっと聴いていた。サインを貰おうと思うのだが、結構繁盛していて、お客さんの出入りがあり、なかなかタイミングが掴めない。隣に若いカップルが来て、益々難しい状況。やっと二人が出て行くと、入れ替わりに若い女性客一人が来たが、思い切って「オクノさん。サイン頂いてよろしいですか」と切り出した。周りがややザワめいた感じはするが、構っていられない心境。
 
 奥へ行ったのでどうしたかと思っていたら、マジックを持って来られた。「次のCDが年内に出ますよ」(その後延期され、最新盤「ボロロック<クーツェ>」となった?)とか「唄う人、のアルバムジャケ撮影は横浜と高円寺」。「こんにちわマーチンさん、を録音した焙煎小屋は東山学園辺りにある」と教えてもらい「12月に高円寺で唄いますから、良かったら来てください」と言われたのも、嬉しかった。
 
 さて、時は12月。開演40分前に会場に到着。中からはリハの音。恐る恐るドアを開けてみると「まだ入れませんよ」と田口さん。仕方ないので、ガード下で蕎麦を食べて10分前に再訪。何とそれでも一番乗り。会場と同時に突入し、Hさんと共に、最前列真正面に位置取り。
 
 何せ、足を延ばせば譜面台とクロスし、オクノさんのマーティンD-18まで約1mの、恐るべき近さ、というか狭さ。客は何処からか続々と現れ、気が付けば立ち見多数の大盛況。周りには若い人も多く、おじさん二人が真中にいるのも大人気なく悪い気もするが、好きなんだから許して欲しい。
 
 中央線の電車が通る度に騒音も入るし、そもそもライブ向きの造りではないので、ま、どこかの学習塾の教室で演奏している感じ。手作りアットホームと言えば良いのか。
 
 先ずは、OZディスク代表田中亜矢さん。一部では「荒井由実の登場時を思わせる」との評もある透明感のある若手シンガー。初々しいと言うか、ギターもそんなに上手くないと言うか、で、4曲くらいであっさり終わった。
 
 その後、オクノさんが結構延々演ってくれたので、何の事はない、対決と言うよりも前座と真打の構図。来ているファンも、意外にもオクノさん目当ての方が多かったみたい。
 
 曲目は(セットリスト後添参照)代表曲が網羅され、納得・安心の構成だ。
オクノさんの、単なる酔っ払いのおじさんのような、今にも死にたいような(単に息継ぎを間違えたような?)、深い悲哀、孤独感を湛えた絶唱は、心に刻まれた。「魂の唄い方」とでも言えよう(加川良に比肩)。

♪ 道端で 息絶えた 蝉の羽根を 少し 揺らして 秋が来た ♪

 数々の歌は、何故にこんなにも深い哀しみや淋しさに包まれているのか、とても不思議。一度「何が貴方を、ここまで、こうさせるのですか?」と聞いてみたい位。声はかすれ、高音部は苦しそうに、息も途絶えそうに歌う。風邪をひいているのか、お酒の飲み過ぎ(明らかに顔が赤くてほろ酔いの良い気分だったみたい)か、思わず母性本能をくすぐられそう。ギターは、思ったより複雑な演奏で感心(真似できない)。

♪ できたらぼくは この哀しみを 冬の落ち葉の焚き火のように あたたかいものに 変えてみたいと 思った ♪
 
 曲によって、半分くらいは渋谷毅さんのピアノ(と船戸博史さんのウッドベース)をバックに立って身体を揺らしながら歌うのだが、事情を知らない人が見たら、酔っ払い中年のカラオケ風景と変わらんだろうな、と思ったりもする。
 
 これが分かるためには、聴衆に、それなりの人生経験と、音楽探求が必要だろう。歌のテンポは本人がカウント。これがいい加減なようでいて、それなりに周りに指示している模様なので、さすがは数々のバンドをこなしてきただけはあるような気も・・する。兎に角、その辺は、良く分からない。

 最後に、Hさんがサインを貰ったので、私も、9月のサインに引き続き、大好きな「こんにちわマーチンさん」の表に「ありがとう」と書いて頂いた。
 

<セットリスト>
1.うたううたうたい  2.ひびく言葉  3.くれてゆく街角で  4.風のにほひに  5.マリーマリー  6.人生のアラカルト  7.川の流れにそって   8.遠き山に陽は落ちて  9.どうしてここがわかった  10.やがて船は出てゆくだろう  11.春  12.できたら僕は  13.唄う人
 (以下、アンコール)  14.風がねむる僕の丘を  15.夜がそこまで

♪ ゆくあてがある訳じゃない 確かなものなんてない そばにいるあなたの心さえ 何も分からない ♪
 


「ボロロック」の発売に寄せて・・・


オクノ修ホームページはこちら http://www5e.biglobe.ne.jp/~o-kom/