新しい空

新しい空を見た?
九月の。ぐるりと見回してもまだ続く、果てしない、そして海より青い微粒子の空を。

僕はまだだ、と言いながら今一人で石神井公園の小道を歩いている。
ベンチに落ちる木漏れ日もまだ優しくないね。
だから誰もいない。
暑さで木々もカラスも疲れている。

暑さしのぎに海の話をしよう。
一日中九十九里の砂浜でごろんごろんして来たよ。
民宿の中学生たちとも親しくなってね。
夜は花火を上げたな。
なかなか火が点かなくて。今時湿ったマッチだよ。
それを何本も折りながら、また駄目かって言いながら。

初めてロケットがすうっと夜空に吸い込まれた時。
そしてぱんっと花びらが散った時。
みんなうわって言ったな。
火薬の匂いのする煙が夜空を白くしたな。
意味もなくわーわー叫びながら夜の中学校の校庭を走ったな。

タクシーに相乗りして夏祭りにも行った。
合宿に来ていた短大生のグループと意気投合して夜店を梯子した。
きゃーきゃー騒いで。
久しぶりの街灯りに興奮して飲んだ冷酒が回って、酩酊したノナカのおかげで女の子達はしらけて帰ってしまったな。
介抱しながら地べたに座っていると、例の中学生達と再会。
ラムネを飲みながら長くしゃべったな。
その内容は何にも覚えていない。

一週間して帰る時、バス停まで見送りに来た中学生に、丸まった『週プロ』で頭をたたいてそのままプレゼントした。
「宿題やれよ」って声をかけて、バスに乗った。
思い出を乗せて、バスは海岸線の国道をひた走る。

夏の終わりは寂しいね。埃っぽい景色も、客のおばあちゃんたちの会話も、うとうとして見た夢も、みんな…。

暑い夏の 盛り場を 僕たちウキウキ歩いた
ネオンの隙間をすり抜けては どうしてもまっすぐに歩けない
にぎやかに にぎやかに できるだけ にぎやかに
「長いドレスが 欲しいな あの飾り窓の。」
ぽつんと 一言 心の中に
夢の道を たどって そっとおさまる
いつかの夏に そんな言葉

仕事帰りのひょろ長い僕の影が今坂道を登っている。
茂みに視界を奪われていた池の隅から、その時ばさばさっと一羽の鷺が飛翔するのを見た。
あの日甘美なことばを埋めるためにお茶の水LEMONで買った日記帳が未使用のままなことをふと思い出した。