再びの神様 ~ 岡林信康と御歌囃子 2005.8.29

 ♪ 君の痛みの深さを 分かるはずも無い 何か二人遠くなる
  目の前に居ると いうのに・・ そうさ僕は僕 君になれはしない♪ (君に捧げるラブ・ソング)

 岡林神様が、久々に下界に降臨した。05年8月29日。しかも、場所は東京ど真ん中=お江戸日本橋。何と「御歌囃子」という駄洒落のような居酒屋 兼 ライブハウスの開店記念ライブである。およそ自らのあらゆる軌跡を消し去ろうとする近年の行動(裁判まで起こして権利を独占。復刻CDに自分の歌は入れさせない。ファンのホームページは閉じさせる。自らの公式HPも閉鎖)からは、俄かには信じ難いような動きである。

 実は、この居酒屋、8月8日にオープンしたのだが、その記念ライブ(8月3・4日)は、「お世話になった招待客のみ」との内輪限定ライブだったため、参戦を断念。今度こその一般オープンライブへの参加と相成った次第。

 Hさんと17:55待ち合せ。何と「18時までに来店できる客のみ予約可能」との、これまた厳しい条件付である。ライブ自体にチャージが無いため、開演までの間に十分飲み食いして金を落とせ、との分かり易い資本主義体制。岡林はかつて左翼系だったような気もしないではないが、今や我が国固有の民謡であるエンヤトット教の教祖様。短絡的に申せば最右翼である。
 
 和服姿が決まった美人若女将の案内で店内へ。意外に、と言っては失礼だが、古民家風造りの立派な居酒屋である。居酒屋と言うより、割烹とか表現しても良いくらいか。何せ、仲居さんがお酒を注いでくれたりする。女将の挨拶によれば「団塊世代の方の癒しスポット」がコンセプトなそうな。ご自身は洋食系からトラバーユしてきた由。そんなことはどうでも良いが、本居酒屋チェーンの社長と神様の関係は不透明。でも、名前を使わせ、無料?ライブを敢行するくらいだから、一定以上の信頼関係にあるものと拝察。今度こそ閉じないことを期待。
 
 予約したステージ真ん前の大テーブル隅に陣取り、秋刀魚刺・キンピラなど、1時間チョイ、飲み食いしたところで、神様登場。流石に寄る年波か、頭髪が、白く、薄く、なった感・・は否めないが、日本フォーク界にあっては十分なルックスのキリスト似。向かいの席の女性が思わず「カッコイー」。1曲目は、お馴染み(知ってる人しか知らないが、セゾン全盛時のCMに利用されたエンヤトット転向時の韓国民謡)「ペンノレ」。
 
 神様お得意の吉本的MCは、
「前回の招待ライブは、放送局、新聞、キリン・アサヒビールの役員などばかりで、どうも堅苦しかった。そこへいくと今日は下々の純粋なファン、というか私の信者が集まっているので楽に行ける」

 そのまま、平野融氏をサイドギターに迎えて2曲目、「山谷ブルース」。イントロで区切ってMC、
「コラ拍手が足らんゾ!。なんせ我輩唯一のヒット曲なんじゃから」
再度イントロで拍手が鳴った所でストップMC、
「歌が始まったところで、盛大な拍手を!」
相変わらず我が儘なように見えて、これも今やお約束ギャグの部類か。何故か故G.馬場の16足文キックが想い出される。古典芸能の枯淡の味わいに近い?

 3曲目、「チューリップのアップリケ」。客席の一部からは、「おー」といったドヨメキ。今時、被差別部落少女の悲哀を綴ったこのような歌が、現に歌われるとは思っていなかった、昔懐かし族とお見受け。「♪うちー、やーっぱり、お母ちゃんに 買うてほしー♪」ボーイソプラノが冴え渡る。

 4曲目、「君に捧げるラブ・ソング」。開演前Hさんに「君に捧げる・・」なんて多分歌ってくれないんでしょうね。カラオケでチューリップのアップリケとかこれ歌うと、自分で泣いちゃうんですよね」と告白していたので、Hさんから「出ましたね」の一声。親友であったカメラマンをクモ膜下出血で亡くす間際の心境を綴ったこの曲も、そうした話はさて置いても、やはり鬼気迫る感のある名曲。後ろの方で歓談するおじさんが気になるが、居酒屋だからしょうがないのカナ。

 5曲目、「流れ者」。多少、某公共放送の「想い出のメロディ」ぽい感もしないではない構成であるが、顧客満足度の追求=ファンサービスも重要である。

 ここで、冒頭の謎に答えるかのような、本音MC
「私にとっては過去の全てのことどもが、はっきり言ってただ『重苦しいことばかり』である。その上、最近ではお布施(印税?)も来ない<笑>」
―― それはご自身がCD販売を拒んでいるから、は、とうに承知のジョーク。
―― 因みに、会場では、お手製ベスト「歌祭り」1・2、を持ち回り即売。

 6曲目、「さあ踊りましょ」(仮題)。「♪春に吹かれて・・」で始まる、私の知る限り新曲である。この辺りまでには、お馴染みのエンヤトット・ファミリー楽団は勢揃いの図。
 
 7曲目、「エンヤトットで行きまSHOW」。もう完全に神様のペース、独壇場である。ここでメンバー紹介。三味線:高橋希脩、尺八:佐藤英史、鳴物:美鵬鳴る駒・・。夫婦がいることを茶化して、「女性の見境の無さ、軽薄さ、凶暴さ・・を見事に表現」「好き勝手に演奏しているようでいて、その実、男女の縁の妙を・・」「私は今や歌う司会者に過ぎない・・」と、際どく笑わせる。
 
 私の聴衆歴も、過去苦節二十余年、日本青年館、郵貯会館、はたまた船曳公民館に至るまで、素晴らしい(徐々に場末の?)公共施設では、無理に立たされて踊らされる(まるでアリスかB’zのコンサートのような)感も無いではなかったが、今日は、なんたって居酒屋。全員酔払ってるし、正直気持ち良い。手拍子も自然に打てよう、というもの。
 
 しかし、神様に「エンヤトットが我が国固有の領土、ならぬ固有のロックである、との教義は認めます。もう十分に堪能させて頂きました。そろそろ、正統派フォーク・ロック路線に立ち帰り(再転向)ませんか?」と期待しているのは、私だけじゃない筈。かの、なぎら健壱氏から「昔の岡林さんを見てみたい」、愛弟子、泉谷しげるも「腐っても鯛だぞ、オカバヤシ!」と願かけしてから有余年。
 
 8曲目、「あらえさっさ!!」、9曲目「ラッセーラ」と、説明不要・解説不能の日本のリズム=お囃子=エンヤトットのオンパレード。観客もノリノリ、演奏者もウキウキで、熱演のようで脱力系のようで・・。特に(還暦を迎え)「チャンチャンコ吉田」と紹介された吉田豊氏の太鼓は、見事にラテン系の能天気さ、というかカーニバル的ムードを醸し出していた。

♪ リズムはワシらを運んでくれる 深いところへ らっせーら!
  みんな忘れて 裸になって もっと行きましょ らっせーら!♪ (らっせーら!!)
 
 飲み物メニューに、高級芋焼酎「御歌囃子」あり。2人でボトルキープ(多少飲み過ぎ)。ラベルは、神様のお手になる「釣りの風景」(絵本の1枚)。当日20本限定の日付入り直筆サインも生々しい。本ボトルはHさんがお持ち帰りの上、持ち前の印刷技術を駆使して、完全コピーしてくれる約束。神様に訴えられるかもしれないが<笑>、楽しみ。
 
 なお、今後も不定期に、神出鬼没に、突如として、神様は降臨されるらしい。ファンとしては辛い、店としては美味しい?作戦であるが、ま、居酒屋としてもお薦めと言える。お近くの方はどうぞご愛用くださいませ。運が良ければ「あなたも神様に会える!」。高田渡亡き今、伝書鳩に続き金魚オタクになっているらしい岡林サンだって還暦一歩前。いつまでお元気か、保証の限りに有らず。見るなら今のうち、カモ。

以上