大瀧詠一編

 人物編24回目は、友川カズキの難解さに難渋する中、急遽ロック・ポップス寄りに舵を切り、今は亡き『永遠の達人』、大瀧詠一さんを採り上げる。
 
 大瀧氏は、言わずと知れた日本ロックの始祖、若手からもリスペクトされ続ける「はっぴいえんど」のボーカル兼ギタリストである。
 --因みに、他のメンバーは細野晴臣、松本隆、鈴木茂と、信じ難い強者揃い。
 
 はっぴいえんど解散後は、自ら「ナイアガラ・レーベル」を立ち上げ、ノベルティ(コミック)ソングを含めたマニアックかつユニークな活動を展開したが、残念ながら付いていけるファンは限られ、世間の理解は得られなかった。
 そして、1981年、「A LONG VACATION」の発表と爆発的な大ヒットによって、一般大衆にまでその存在を知らしめ、洗練された永遠不滅のポップスとして比類なき地位を確立した。
 アメリカンポップス(特に1950年代辺り)をあらゆる米国人よりも広く探く研究したうえで、先達をリスペクトし、フィル・スペクター的なウォール・オブ・サウンド(幾重にも音を重ねて、聴き手を圧倒するゴージャスさで演奏)を完成したことで有名。
 
 私はナイアガラ―ではないので、ロンバケ以降の後記作品に選盤が偏っているほか、氏の「ポップス普動説」や「分母分子論」等には触れることができない点を、予めお断りしておく。
 --本当は管理人さんや、日本最高級の大瀧マニアAさんにも、執筆をお願いしたが、固辞されてしまい。。。<涙>
 
 今回、いつものように「曲」を表現する能力に乏しいので、「詞の一部」を紹介しているが、書けば書くほど、これは「松本隆」の作品(もちろん大瀧氏とのコラボならではだが)なんだなあ、と少し妙な気分になった。
 
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1.A LONG VACATION(`81年作品)
ベスト1は、誰が選んでも、やっぱりこの歴史的な名盤になるよね。
日本のフォーク?・ロック・ポップス界に燦然と輝く金字塔であり、最高のドライブ&リゾートソングでもある。アルバム冒頭を飾る「君は天然色」からして、それまでの日本音楽界になかった異次元の弾けぶり。
私自身、大瀧詠一の存在はもちろん昔から知っていたが、恥ずかしながらその(とりわけボーカリストとしての)偉大さを思い知ったのはこのアルバムによる。

1)恋するカレン
・誰しもが青春時代に経験する失恋をテーマに、流麗なメロディの中にあって、相手への恨みがましい<苦笑>嫉妬心を吐き出している点、大いに共感を呼ぶ。少なくとも私は、心から「その通り!」と思った。
・「形のない優しさ それよりも見せかけの魅力を選んだ おーカレン、誰よりも君を愛していた 心を知りながら捨てる 振られた僕より哀しい そうさ哀しい女だね 君は~」

2)さらばシベリア鉄道
・このアルバムの中では唯一、夏ではなく「冬」、それも極寒のシベリアを描いて稀少感(なぜ入れたのか不思議感も)。哀愁漂う名曲でもある。先行して太田裕美も歌っていたが、サビの辺りのメロディが違っているので、カラオケで歌う際には要注意。
・「この線路の向こうには何があるの? 雪に迷うトナカイの哀しい瞳 答えを出さない人に 付いて行くのに疲れて 行先さえない明日に飛び乗ったの」

3)カナリア諸島にて
・いかにもリゾート。ああ、カナリア諸島(遠いよ!)に行って、何も考えずのんびりしたいなぁ・・・と夢想させる歌。この人は、やっぱりこういう爽やかな歌が似合っている感じが。
・「薄く切ったオレンジを アイスティーに浮かべて 海に向いたテラスで ペンだけ走らす」「夏の影が砂浜を急ぎ足に横切ると 生きることも爽やかに 視えてくるから 不思議だ」

2.EACH TIME(‘84年作品)
第2位は、前作と甲乙付け難い(同じテイストの)この作品。ロンバケがアメリカンポップスへのオマージュで、こちらはリヴァプールサウンドへの思い入れだ、と解説する人もいるが、私には、正直違いが良く分からない。
ロンバケよりもリゾート風味が強まっているが、後から出た分、評価としては前作に比べると損しているかな。実質最終アルバムでもある。

1)ペパーミントブルー
・とにかく、詞も曲も編曲も歌唱もコーラスも全部良い極上の傑作曲。カラオケで歌うと高揚感が得られる<笑>。「水のような透明な心」で愛し合える人と、ペパーミントブルーの世界に行ってみたい。ご本人は行った?想像?興味あり。
・「眠るような陽を浴びて君はブロンズ色 南向きのベランダで海を眺めている」「斜め横の椅子を選ぶのは この角度からの君が とても綺麗だから」

2)Bachelor Girl
・とにかく、出だし(雨音からいきなり歌)が、詞も曲も凄い、迫力のある素敵な歌。全体としては「さみしい」感情。この歌に限らないが、今や歌謡界の大御所?となった松本隆の作詞力、大瀧詠一との相性は抜群なものがある。
・先行した稲垣潤一の歌唱で有名になり、そちらも遜色ない。
・「雨は壊れたピアノさ 心は乱れたメロディ My Bachelor Girl」

3)フィヨルドの少女
・独特の演奏が好き。内容は、聴けば聴くほどに哀しい歌。
・ちょっと、というか、かなりボブ・ディランの「北国の少女」に似ている。黒いコートも出て来るし。偶然の産物か?・「あの娘は 友達さえ 作らないよと誰か言う」「あの娘を 人嫌いにさせた過ちは 僕にある」

3.NIAGARA TRIANGLE Vol.2(‘82年作品)
佐野元春、杉真理という、当時の若手の才能を見出してトリオで作った作品。大瀧が主役という訳ではなく、3人の歌が平等に収められている。佐野元春の秘めたエネルギーが弾けるような楽曲も魅力的だが、本稿の趣旨に照らし、大瀧作品を紹介。 ――因みに、Vol.1では、山下達郎、伊藤銀次と組んでいる。 ――Vol.3では、竹内まりあ、山下達郎プランがあったようで、聴きたかった。

1)白い港
・知名度は無い感じの曲だが、私が一番好きな歌。イントロのドラミングから始まってド迫力の鍵盤群に至る演奏のほか、詞も曲も抜群のセンスが全開でしょ。
・「心の片隅 何かが壊れたよ 青空が眩しい 港のカフェーの椅子で 僕はふと目を伏せながら 腕時計巻いた」「僕はふと孤独(ひとり)なんだと 気が付いて 苦いコーヒー飲むよ」

2)A面で恋をして
・明るい、オーソドックスなラブソング、という感じか。資生堂のCMに採用されながら、出演モデルのスキャンダルにより、たった1週間でお蔵入りした、という曰く付きの不運作でもある。
・「A面で恋をして ウィンクのマシンガンで 僕の胸 打ち抜いてよ」「A面で恋をして 永遠の指定席に 君を招待するよ」

3)オリーブの午后
・何だか似たような歌が多いような気もしてきたが、これも南国ビーチでの恋人同士の歌。嫉妬を覚えるほどの素敵な世界が描かれており、羨ましい限り。
・「青い葡萄を口に投げ入れたら 海に浮かぶ岬まで走ろう これで二人きりうるさい奴らを巻いて」

4.B-EACH TIME L-ONG(‘85年作品)
第4位は、反則技と言われそうだが、この作品。
基本的はベストアルバムでありながら、全曲、楽曲の前にイントロ(ストリングス)が入り、3曲がリミックスされている。このイントロ(結構長い)から歌入りの曲に入っていく感じが、たまらなく良い(快感!)。
もしかしたら、私が買った最初のCDの1枚だったかも。現在は幻化している筈、と思って今調べたらいつの間にかアマゾンで安く買えるので、お薦め。

1)夏のペーパーバック
・他のリゾートソングに比べると、少し落ち着いたトーンの楽曲。内容的にも、別れの予感が漂っている。
・「渚に吹く風が涼し過ぎるね プールサイドへと陽が傾く 波を見て来るわってビーチに消えた 君を探しに行く気もない」

2)雨のウェンズデイ
・この時期の大瀧作品にしては、珍しくしっとりした楽曲。恋人同士の、ラブラブでもなく別れでもない微妙な状況を謳っている。
・「海が見たいわって 言い出したのは君の方さ 降る雨は菫色 時を止めて抱き合ったまま」

3)銀色のジェット
・これも、珍しくスローテンポで、バラード調の曲。
・内容は、実に哀しい別れを描いている。
・「羽ばたくのを止めれば 墜ちること 青空舞う鳥さえ 知ってるさ 君だけが知らなかったね」「愛され過ぎてたから 愛せない 今ではそんな君も哀しいよ」

5.NIAGARA CALENDAR(‘77年作品)
ナイアガラシリーズ、すなわち「はっぴいえんど」以降「ロンバケ」以前の作品群を、より上位に持って行くべきかもしれない。
しかし、ナイアガラ史上の最高傑作と(管理人さんだけでなく、ご本人も)されるこの作品を含め、私にはやはりマニアックな遊びが過ぎる気がして、第5位に1作品選盤しておく。
本作は、ナイアガラ・レーベルの浮沈をかけて、全力投球で製作された自信作(結果惨敗)。お正月からクリスマスまで、1年12か月に合わせた題材が多彩な音楽・リズムで歌われている。ハチャメチャとも言えるだろう。初回に盤には「すごろくが付いていて稀少・高額だった」とのA氏想い出。
私は若い頃レンタル店で借りて聴いたことがあるが、全く分からなかった。それもその筈、本作品はポップスに関する音楽的な教養を持っていないと理解することが難しい。端的に言えば、本作品までの前期作品群はリズムと諧謔の精神、ロンバケ以降の後期作品はドリーミーなメロディと乾いた抒情、と解釈すれば分かり易い。

1)名月赤坂マンション(九月:長月)
・意外かもしれないが、この歌に一番嵌まった。ズバリ演歌である。岡林信康のド演歌(うつし絵)ほどではないにせよ、尺八と三味の音から入る演歌歌謡であることは間違いない。
・大瀧詠一のパブリック・イメージからはもっとも遠い作品ではなかろうか。
・「今宵可霧か この部屋も 可愛い社員と 別れの門出 名残惜しいは お互いさ」「あの日ローマで眺めた月も 今月今夜のこの月も あー 月に変わりはないものを」(実話である旨の注釈付き)

2)五月雨(五月:皐月)
・続いてこれが良いなと。プランクシナトラか?フランク永井か?高音のイメージがある大瀧氏が低温で重厚かつ深淵に歌い上げている。
・「無暗矢鱈 降り続く くすみ果てた 空」「震えている わなわなと 雨曝しの街 五月雨」

3)青空のように(六月:水無月)
・明るく爽やかな歌で、ロンバケ以降の大瀧作品の原石のような作品。
・先日カラオケで管理人さんが歌った際、先ずはタイトルが谷川俊太郎&小室等みたいだなあ、と思ったら、いきなりコミカルなノリの良い楽曲でずっこけた、というかビックリした。
・「ニコニコ顔 しかめっ面 君はお天気屋さん」「笑顔が欲しい ぼくの心 いつでも君のもの」

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 この解説文を見て、今から大瀧詠一を聴こう、と言う気になった方には、「Best Always」というオールタイムベスト盤が出ており、稀少な曲(竹内まりあとのデュエットなど)も収録されているのでお奨めである。 また、ご本人の死(2013年12月)後、自身の作品のカバー的な奇跡のコンパイル作品「DEBUT AGAIN」が発売(2016年)されており、デモテープ混じりの筈が、圧倒的で緻密な完成度にファン一同ビックリした。
 さて、外部委託した「長渕剛編」は行方不明の中、次回、「友川カズキ編」が書けるのか、甚だ自信を喪失しつつある。。。

2018年6月記