雨の中

雨の中の混んだ駅前通り、「都民農園行き」のバスは立ち往生したまま。

そんな風景を見下ろしながら、昔のままちっとも変わらないこのハンバーガー屋でみんなを思い出している。
店長だった竹君、君の人なつっこさが、あの個性的な常連たちを集めたんだよ。
熊本出身で一日中さぼってばかりいる眉の濃い本屋の営業マン吉田君。
髪が薄いから貫禄があって社長風なのに、長続きしないで転職ばかりしていた笹田君。
「あの人死神ついてるよ」が十八番、自称霊能者で君の婚約者まゆみさん。

そんなみんなが毎晩二階奥の窓際席に集まっては今思い出しても恥ずかしい、子供っぽい夢を語り合ったものだ。
あの頃が懐かしいね。
竹君、小柄な君が店でもめ事をおこすグループのリーダーに敢然と立ち向かっていった日のことは鮮烈に覚えているよ。
「二度と来るなよ」って怒鳴りつけた後、店のお客一人一人に帽子をとってお詫びして回っていた。
あの時の君はかっこ良かったよ。
みんなに祝福されて伊豆高原に君の念願だったペンション「ハミングバード」はオープンしたよね。
みんなにその事を告げた日の、あの日の君のはにかんだ顔が忘れられないよ。
でも、それは数年で人手に渡り、君からの年賀状も何年も前から来なくなった。
最後にもらった年賀状には、入間にパン屋を開業しました、と印刷してたけれど、脇に「心機一転がんばります」って小さく小さく書いていたのが忘れられない。

この町にまさか自分が住むようになるなんて。
因縁なのかな。

君の結婚式で僕が下手なギターを弾いて歌ったね。

 雲が飛ばされて月がぽっかりひとり言
 こんな空は昔ほうきに乗った魔法使いのものだったよ
 悲しい顔してさ
 君の絵本を閉じてしまおう
 もう少し幸せに幸せになろうよ