豊田勇造編

 人物編17回目は、少し間が空きましたが、紹介しない訳にはいかない「旅する歌うたい」こと、フォーク&ブルーズシンガーの「豊田勇造」さんです。出身の京都を中心に、時としてタイに移住し、その周辺国やジャマイカ、アメリカ等を旅行し、と、地道なライブ活動を含め精力的な旅人。一連の歌に流れる象徴的なイメージは、「土着の匂い」だろう。「経済的・物質的豊かさは、穏やかな暮らしと相反する」というのが一貫したメッセージでもある。それは例えばブンミーという曲のサビ「世界で一番貧しいところで、一番豊かなところで」に代表される。
 
 野太い声と、独特で超絶なギターテクニック。その風貌からは、アジアチャンピオン(何?)の香りというか臭いが漂う。故高田渡や友部正人との親交も深く、互いの歌に登場したりもする。いわば知る人ぞ知るミュージシャンズ・ミュージシャンと呼べるだろう。なお、日本語の「ブルース」を源語の「ブルーズ」と発音する数少ない歌手でもある。09年には京都・円山音楽堂で還暦ライブ(60年6時間60曲)を挙行し、そのDVD&CDも発売されている。
 
 私自身の思い出としては、学生時代に某大学構内で行われたライブを見に行き、そのギターテクに驚嘆しファーストアルバムにサインしてもらったのと、10年ほど前、「30周年ライブin TOKYO」なるものに出かけた時に、会場内の抽選でそのライブカセットが当たり、今もそれをCD化して持っている。一時期は自身の名前をネット検索すると、その当選者発表が載っていて(変な宗教じゃないんだけど)やや焦った記憶がある(苦笑)。以下、曲の紹介は主として1行コメントと歌詞の核心引用スタイルでご容赦願う。

 

1.血を越えて愛し合えたら('80年作品)
・ベスト1は、単身ジャマイカに乗り込んで現地ミュージシャンを集めて制作したレゲエアルバムのこの1枚。オリジナルのLPには、演奏陣集めや録音を巡る幸運や苦労のあれこれが記されていた。
・そうした即興に近い環境の下で、良くこれだけの完成度を誇るレゲエアルバムが製作できたものと思うと感慨深い。各曲のレベルも皆高い。

1)台湾
・台湾旅行を通じて、日本人(軍)の原罪にまで思いを致し、贖罪する深くて重い内容の歌。
・「見ると聞くとは大違い 旅行案内信じるな」と始まり、
「ここには朝から働く人と 夕方起きて働く人と 朝も夜も働く人と
それを横目で笑う奴らがいる」
と続き、
・「船で五時間の離れ島 日本語喋られてどきっとした
海は黙っているけれど ここでも殺したかもしれない
俺の牢獄がギターだとしたら あの人らの牢獄は台湾だ
牢獄破って嵐が吹くだろう 嵐はまず北に吹くだろう」
と、戦争当時から連綿と連なる日本(人)を糾弾している。

2)大きな自由
・「宇宙歌」とでも呼びたくなるような、大きなスケールを持った歌。
・「この世に生きて三十年 まだまだ生き足らない俺がいる
時々腹が立つ 日本人と呼ばれることが」と始まり、
・「いつか晴れた日 目覚めた朝に 血を越えて愛し合えたら
おお その日こそ楽しむのだ この世に生まれて来たことを」
・「日本の雨 ジャマイカの朝焼け 飢えないインド 朝鮮の春 そしてはっきりやって来い 大きな自由 UNIVERSAL FREEDOM」
と大きな自由=ユニバーサルフリーダムの連呼で締め括られる。

3)北海道の朝
・北海道を旅し、雄大な朝の空気感が充満した気分の明るくなる歌。
・「長距離トラックの走るのが見える 北の海ぞい ハイウェイ
もうすぐ初めての朝日があがるはず もし約束どうりなら」と始まり、
・「俺は今早くて広い 北海道の朝にいて 半分はお前のことを 半分は人を思っている 通り過ぎ運ばれて行く 荷物のように感じた朝に あいつのくれたしぼりたての 牛乳一杯ありがたかったこと」
・「朝の鳥が動きだし 波の音がひいて行く まだ旅は始まったばかり 今旅は始まったばかり」
・「これからもっと寂しくなるだろう これからもっと嬉しくなるだろうか
飢えてる熱い女に 飢えてる熱い男に」と締める。

 

2.マンゴーシャワーラブレター('93年作品)
・第2位は、90年代に入って、京都やタイやブルーズへの愛憎の柿が、まるで熟れて落ちるように出来上がったこのアルバム。いろいろなテーマとテイストを持つ力作や名曲が揃っている。

1)泰ちゃん
・大好きだった亡き盟友(女性)を懐かしみ、豊かな思いを託した歌。
・「それからもう少し歩き ドアを開けたら
リズム&ブルーズに揺れながら あなたがウィスキーを飲んでた」
・「海の向こうの黒い声が 心にしみわたる
それはひとつの炎となって 身体を熱くする」
・「あらゆるものがこじんまりと まとまろうとする今こそ
泰ちゃん、あなたのような人に生きていてほしかった」
・「あなたの思い出が 今夜も丘を登らせる
坂の上から振り返れば見える 街の明かりがきれいだ」

2)マンゴーシャワーラブレター
・タイの貧しい農村で雨を待ち望む人達への思いと友情を託した歌。
・「雨が降ってる 久しぶりの雨が これであの人たちも嬉しいだろうな
そんなふうに思うようになったこの頃の俺から 緑のインクで マンゴーシャワーラブレター」
・「命半分生きてしまった 命半分生きてこれた 最近ひと日がとても早い でも今はゆっくり降る雨を見てる」
・「水さえあれば雨さえ降ればと いつか訪ねた村の誰もが言ってた
今夜あの人たちは雨音に包まれて 安らかな眠りに落ちていけるだろう」
・「豊かさに慣れてしまった暮らしの中で 本当に大切なものを見失ったとき
思い出すだろうあの村のことを 思い出すだろうこの雨のことを」

3)時代が変わっても
・時代は移り変わっても、ブルーズの真髄は不変(普遍)だぜと、歌う。
・「靴はくたびれてるけどまだ歩けそう 声はしわがれてるけどまだ叫べそう
 年寄りではない でも決して若くはない そんな男の話を聞いてくれ」
・「ジミー・ヘンドリックス ジャニス・ジョブリン マディー・ウォーターズ ボブ・マーレイ 憧れてたやつはたくさんくたばっちまったけど 残された歌に今も熱くなる」
・「最近ときどき考える 俺の夢はなんだったんだろう 本当のことを言ってもいいよね ふと泣きたくなることがある」
・「すべての男と女にこの歌を贈ろう 今夜もお前は旅にいる
土の下深く水は流れ続ける いくつ時代が変わっても」


3.さあ、もういっぺん('76年作品)
・第3位は、実質的なファーストアルバムで、他のアーティストと同様、勇造の本質(ルーツ)がしっかりと埋め込まれているこの作品。今でもよく歌われる歌が多い。オリジナルLPには、勇造に関する記事や楽曲紹介、拾得建築時の写真など当時の「クリエイティブアクションズ・発見の会」の意気軒昂さというか熱気が詰まった解説文も付いていた。

1)行方不知
・名曲度ランクでは第一位になるかと思われる傑作。祭りの後的な空気感の中で、内省的な内容を静かに語りかけるが、歌詞全体が普遍的な含蓄に富んでいて稀少。
・「残り火には水がうたれ 何もかも終わったのに
まだ物欲しそうな顔で なにかを待っている俺
一人ぼっちの二人っていうのは ディランの歌だけど
選ぶことが捨てることでないように するにはどうしたらいい」
・「舞台で歌を忘れた男に 助けをやるのはよしな
ピエロが仮面を落した時は 素顔で笑ってもらえ
俺はちっぽけな男でけっこう 裏切りものと呼ぶがよい
ピエロの出番は終ったのだ すべてよ歌い手となれ」
・「いつか心が霜に 体がちりに変わるまで
世のあらゆるものとともに このいのち全うしたいけれど」

2)大文字
・行方不知とは逆に、京大グラウンドでのライブ時の客(ウェストロードブルースバンドの後で、ロック色を求めていた)からの屈辱的な扱いに対する激しい怒りと対抗心に包まれた歌。
・「ライトが照らす男のひたいは 汗と涙とあざけりで汚れ
あと二十分のフィニッシュまでに 一発決めねばならない定め」
・「石で打たれたことがあるなら 砂のかわりに未来を投げてくれとは
口には出すまい舞台の上からは 自分の選んだ道を進め
男の背中で大の字に山が燃える 男の手の中の蜂鳥よブンブン飛べ
さあ、もういっぺん さあ、もういっぺん 火の消える前に」
・なお「蜂鳥」とは、ハミングバード=ギブソンの高級ギターで、アルバムの裏表紙をドアップで飾っている。

3)ブルーズをやろうぜ
・旧友との交友を振り返りながらブルーズへの深い愛情を歌い上げた歌。
・「おれはいつか古いブルーズをやりたいと ひかえめにギターを弾いたおまえ 春は菜の花 九州は大分 せんべいぶとんに寝かせて 風邪をひかせてくれたおまえ」
・「風が運んだうわさを聞いたよ おまえが逝っちまったと
溺れる女助けたあとで逝っちまったと ばかな男 三浦ふる 今晩化けてこい ブルーズをやろうぜ 三浦ふる 夜どうし」


4.雲遊天下('99年作品)
・第4位は、比較的最近の作品から、YUZO・BANDとのごきげんなアルバム。バンドサウンドが決まっており、何せタイトルが「雲遊天下」とビレッジブレスの有名な機関誌(下記のとおり同名の曲入り)を持ってきているのは自信の表れかと拝察される。

1)ありがとうディラン
・ボブ・ディランへの厚い尊敬の念を、世界を代表して率直に綴った歌。
・「はじめてあなたを聴いたのは 16、7の時だった
歌うというより吠えていた 深い悲しみの固まりが
それからあなたの真似をして 心の底を歌にした
首からハーモニカぶら下げて あなたを真似して旅に出た」
・「夜更けの国道に立ち ヒッチハイクで砂丘へ向かい 
砂に寝転び星を見た 思えばあれが漂いの始まり 
・「この国のあちこちに 世界中のあちこちに
あなたの子供たちや孫たちがいて 今夜もギターをかき鳴らしている
歩いてきた道の始まりに あなたの名前が刻まれている
あなたが居たからここに居る ありがとう ボブ・ディラン」
  
2)OKINAWA ON MY MIND
・沖縄=琉球への愛着を、美しい琉球ロックサウンドに乗せて歌った曲。
・「帰り着いて時経てど 想いはまだそこにある
はるか南の島じまよ 情け深き人達よ
夏の初めのうりずんの風に 揺れてたのはアカバナ
OKINAWA ON MY MIND」
・「基地に囲まれた悔しさを 歌い続けるオキナワンボーイ
何という海の青さよ 何という空の広さよ」
・「花も歌も食べ物も 時の流れも酒さえも 違えばそれはひとつの国
遠い国から帰ったみたい 桜散る四月のさぶ雨の夜 冷めやらぬ旅のほてり
RYUKYU ON MY MIND」

3)雲遊天下
・上記のとおりビレッジプレスの機関誌と同じ題名。渾身の力作ということかと思うが、やや気合が入り過ぎ、どこか「作ってしまった感」は否めないと言えば欲張りだろうか。
・「急ぎ過ぎた旅人が 峠の手前で 坂道を見上げながら 途方にくれている
まるで同じよう この国の今 肩の荷物下ろして 少し休もう
・「身体をこわし 涙も枯れて 話し交わすこともなく 走り続けてきた
気付き始めた人たちが どこにでもいて 糸を染めたり パンを焼いたり
土を耕したりしてる」
・「荷物少しへらして 歩き始めよう 道端に咲く名も知らぬ花を
数えながら行こう 大空の下で 遊ぶ雲のように 人が生きたかたちなど
何もとどまらぬもの」

 

5.走れアルマジロ('77年発売作品)
・第5位は最新作の「夢で会いたい」と迷ったが、よりルーツのこのアルバムを選出。自らも建設に携わり正にホームグラウンドと言える京都「拾得」でのライブ。今でも十分迫力があるが、初期ならではの勢いのある歌と演奏を聴かせている。

1)ギターが友達
・ギターとの出会いから、その後の様々な人生の場面、愛着を歌った名曲。私の愛唱歌でもある。
・「誰が弾いたか ギターがあった ラジオと弾いた レコードと弾いた
船乗りはカウボーイにとって変わり 本当のことは忘れたけれど
それからはギターが友達 ずうっと俺の友達」
・「赤い寝袋 ギターを持って 地下道で寝た 道で歌った
ポリ公に追われ 子供に笑われ 本当のことは忘れたけれど」
・「北はオホーツク 網走の雪 南は琉球 コザの夜
男と飲んだ 女と笑った 本当のことは忘れたけれど
それからはギターが友達 ずうっと俺の友達
これからもギターが友達 たぶん俺の友達」

2)憧れのジャマイカ
・レゲエの故郷ジャマイカへの憧れを素直に歌った歌。この熱い思いは、3年後に上記アルバム「血を越えて愛し合えたら」で結実することになる。その中でもこの曲を再演している(出来は再演の方が良い)。
・「最近とても人がありがたく たまには自然と頭が下がる
訳なんか聞かないでほしい バカな酒のみになりたい俺に」
・「草を焼くにおいのする 河原に住んで思うことは
最近みんなきれいになりすぎて 最近みんなおとなしすぎて
道は憧れのジャマイカへ 道は憧れのジャマイカへ」
・「太いタバコを喫うという 心そのまましゃべるという
狂い流れるこの国から遠く 生命を遊ぶ人がいるという
道は憧れのジャマイカへ 道は憧れのジャマイカへ」

3)夜を重ねて
・長い人生を揉みほぐすような歌。
・「孤独な兵隊だった ふと気づくと十年だった
ひとつの街といくつかの恋を生きて 今でも愛は行方不知」
・「世のなかで一番みにくいものを 人の心に見て
世のなかで一番きれいなものも 人の心に見る
もう長いあいだゆっくり 話さなかったねえお前と
耕されすぎた畑のように 疲れた心に重ねてほしい お前の夜を」

 以上が、アルバム5枚の紹介であるが、このほかにも、「チャオプラヤ河に抱かれて」「海の始まり」「はだしの歌うたい」「フリー・アウンサンスーチー」「老いてこそロック」などの名曲は多い。


 さて、この「T's Selection人物編」、次回作はいつになるか分からないが、佐渡山豊さんを考えている。