金森幸介編

 第6回は、いきなりの登場ではありますが、近年再評価され、というか自主的に復活し、久方ぶりのメジャー盤ベストアルバム「金森幸介」が出たばかりの、最要注目人物、金森幸介です。何せ50才記念5枚組「50/50」(50組限定が170組に)も加えて、2002年7月だけで6枚のアルバムを発売するという充実振りです。
 関西フォークの重要人物で「日本最高のシンガー」という人までいますが、ずっとマイナーなままここまで来ました。私自身、恥ずかしながら、中川イサトを囲んだアルバム「鼻歌とお月さん」等で名前だけは知っていましたが、3年程前に某所で「緑地にて」を聴いて気に入り「静かな音楽になった」を購入して、その自称「サイレンス印象派」の世界に嵌りました。元々、加川良派だったようですが、いずれ「高田渡」を襲名したい(笑)との野望(本人の常套ジョーク)もあるようです。
 40歳を過ぎてからの音楽と言うものがあって良いと思います。純文学ならぬ「純音楽」があります(早川義夫やオクノ修と似た感覚)。60年代末に出現したフォークの(ユーミン・サザンとは別方向の)最高到達点がここにあります。最近のMy Favoritです。この数年の暮らしでは、これらの歌たちに随分と癒されて生きてきました。

1.静かな音楽になった('99年作品)
・ベスト1はこの1枚。正にタイトルが示す通り「サイレンス印象派」としての頂点に位置する傑作。大阪は服部緑地野外音楽堂(春一番コンサートの開催地でもある)を借り切ってのオープンエア録音で、気のせいか空気感までが感じられる。ハイロウズのキーボード白井幹夫氏のピアノと金森のアコースティックギターとの絡みが、あざやかなまでに繊細で美しい。

1)美しい絵を描く人たちがいる
・ビンセント・ヴァン・ゴッホの絵を通して、芸術家の高みや尊敬の念を表現している。「言葉にならない言葉を紡いで 音にならない音に乗せて 歌にならない歌が書けたら 声にならない声で歌えたら」とは、究極の歌の到達点かもしれない。「何もかもがみんな一瞬のうちに 失われてしまう世界にいる」との世界観は、NYテロ後信憑性を増したし、「たった一人風の中に立て たった一人」との、きりっとした自覚メッセージが尊い。

2)静かな音楽になった
・アルバムタイトル曲であり、文字通り静かに普遍的な世界が歌い込まれている。ピアノもギターもそのアンサブルもひときわ美しい。「忘れられない風景の中に いつもの君がいる 胸の奥 ずっと奥 印画紙に またひとつ焼き付ける」のは、恋人の姿か子供の姿か、はたまた・・。

3)Life Goes On
・全体に静かなアルバム中、最も激しいメッセージを含む歌である。「春一番の風が吹く季節に ぼくらは出会ったんだ」という出だしのフレーズだけで見えてくる心象風景、分かり合える共通感情が、この世代には在る。「立派な大人になりたくなかった ろくな大人がいなかったから」だし、嵐の夜を幾つも越えて、「辿り着いたら泣いてもいいさ・」と17歳の少年少女時代から今日までの遥かなる道程を振り返る。関西フォークシーンを総括する歌と言ってしまっては、狭すぎる解釈だろうけど・・。



2.緑地にて('97年作品)
・タイトル通り、こちらが、元祖服部緑地オープンエアライブ録音で、良ーく耳を澄ませば、キーボードやギターの合間に野鳥の鳴き声や子供らの歓声が聴こえてくる。つまりは基本的に「静かな音楽になった」と同じコンセプトの作品で、いずれ劣らぬ名作と思う。現在発売元のビレッジプレスでも品切れ中。私は下北沢のラ・カーニャで、際どく最後の3分の1枚をゲットした。本人の意向により再プレスされていないが、是非いつの日か再発を望みたい。

1)もう引き返せない
・最近における金森のテーマソングのような歌。内容は先の「Life Goes On」と似て、若い頃の夢やロマンと現実の乖離を感じながらも「夢は色あせていく 僕は年老いていく でもまだ へこたれちゃいない」と「もう引き返せない」強い決意をしっかりとしかし情感豊かに歌う。

2)愛さずにいられない
・かなり気恥ずかしいタイトルのようだが、こうしたラブソングを歌えるところも偉い!。「さよならを言うために 出会う者達がいる 悲しいけどそれは 本当のことだろ」と歌い出し「空の高さを知らない鳥ほど 高く高く高く舞い上がるもの 傷だらけの翼に何のどんな意味もない」との視点は、しかしつらく厳しい。万百の恋歌とはややレベルが違うかな、などと。

3)さくら
・春の花見の季節になると、最近はこの曲を口ずさむことが多くなった。大変素直で優しい歌である。「きれいに花が咲きました 空が明るくなりました 上着を一枚脱ぎました 君に会いたくなりました」「丘に登って話しましょう 青空み空のその下で 君の好きな絵のことやなんかを 咲く花びらを数えながら・・」新しい唱歌としても通用しそうなものだが・・。文部科学省や如何。


3.箱舟は去って('75年作品)
・一連の作品の中でも、特に幻度が高かったが、昨年初ついにCD化が叶い、細野晴臣等ティンパン系のバックが付いていることもあって、大型CD店等において名盤として推薦されている。最近のギター1本、ないし+ピアノといった構成ではなく、「ザ・バンド的編成」なのである意味ゴージャスだが、ストリングスを含め実に美しい。歌い方も最近の癖のある歌い方ではなく、真っ当な歌唱力と美声を遺憾なく発揮しており、どうしてこれが当時売れなかったのかは歴史的な謎である(ただし、ご本人は再発に反対だったというから、難しい)。

1)箱舟は去って
・昨年遭遇したNYテロのとき、偶々聴いていた。「失うものなど何もない 既に僕らは失われた人々」という深い喪失感に「一体何を守ろうというのだ 守るべき何があるというのだ 今ただ一つ確かなことは 失われたものだけが美しいのだ・・」とのサビ。感傷的に過ぎるかもしれないが、無性に染みた。永遠の名曲だと思う。

2)もう一人の僕に
・重い絶望感にさいなまれる自分自身に対しもう一人の自分が歌いかける、美しい中にどこかほのかな光も垣間見える感じの清らかな歌。「見えないものを見ようとしたって 見えるものも見えなくなってしまう」とのテーマは、この時期の良心的日本フォーク界の共通テーマだったようにも思え、永遠の名曲2。

3)悲しみの季節
・「通り雨」というティンパンの美しいバックの作品と迷ったが、やはり代表曲としてこちらを。「いつも悲劇の主人公でいたいんだね 空しい悲しいとわめきたてるがいい」と歌い出し「笑い飛ばしてやろうか 悩み深い人生とやらを 僕には君の言う事なすこと全て 絵空事としか映らないよ」との痛快なまでのバッシングは、ある意味岡林的フォーク・ロックの名作と言えるだろう。この曲はやはりバンド編成の方が映える(最新ベスト盤ではつらいか)。

4.LOST SONGS('00年作品)
・「50/50」や最新ベストをどう扱うかにもよるが、通常アルバムとして最新作と言えるだろうか。「緑地にて」「静かな音楽になった」と続いた野外録音を離れ、有山じゅんじのエレキなどのバックも含めた多彩な演奏で、しかし渋めのラブソングをしっとりと歌った作品。

1)ピエロのように
・見守ってきた可愛い少女が成長し「寂しいとき 悲しいとき 一人ぼっちでいることが 泣きたいほど 辛いとき 君は僕のドアをたたく」。一方、今は愛していながらも「失うものと 潔さを はかりにかけながら 僕はまた ピエロのように おどけて君を笑わせる」。こう言っては陳腐ながら、中年男の心情を心をこめて歌っている、と言う感じか。

2)ちがう言葉
・これも正統派抒情流?ラブソング。「もしできるなら あの日に戻りたい 同じ場所 同じ時間 ちがう言葉で始めたい」。もうこのフレーズに尽きる。ユーミンや小田和正とさほど変らないテーマではあるが、なかなかに突き刺されるものがある。

3)Woo Baby
・多少は毛色の違う歌「PS. PEACE and LOVE」でもいれようかと思ったが、ここまできたら、極めつけのラブソングで統一。「何もかもが薄っぺらで 何もかもが嘘っぽい そんな夜の真中で 君に会えてよかった」「誰もかもが王様で 誰もかもがペテン師で 酔いつぶれたピアノ弾きの 胸の痛みなど誰も知らない」とのフレーズには泣かされる。そして「Woo Baby 愛の形を確かめよう Woo・・」拓郎にも似た歌があったなあ。

 

5.少年('76年作品)
・CD選書にもなっていた割と有名な作品であるが、相対的にはこの位置。石田長生のいたソーバットレビューをバックに、金森らしいナンバーが並んでいるようでいて、若干中途半端だったかとの印象は否めない。

1)この美しい朝に
・前作「箱舟は去って」からの悩み感を払拭しようとでも言うかのように、このオープニングナンバーで「朝はもう 地平線の向こうからやって来る」と切り出し、「新しい日が始まる それは確かなこと 今 僕がふさぎこむ理由など どこにもない」と締める爽快な感覚の歌。だが、やはり抜け出せなかったのだろうか・・。

2)冬真最中
・冬の日のどこにでもありそうな情景をさりげなく歌い取った小品。「木枯らしさんは意地悪で 町のみんなの嫌われ者 でも子供達には叶わない ほっぺを赤く染めて 走り回ってる」というサビがほほえましい。

3)昨日・今日・明日
・絶望感に打ちひしがれる友と一緒に飲み明かそうという歌。「色あせていくしかない 昨日にしがみつき 幸せだったと肩叩きあい グラスを傾ける」という出だしに対し「さあ、あのボトルを空っぽにしなくちゃ そして醒めることのない 眠りを手に入れるんだ」との締めは暗く重い。最近斉藤哲夫がカバーした(こちらのマキシシングルも良い)ことで、再認識できた歌。

 

 アルバムが5枚しかないので、これでほぼ全作品を紹介できたことになる。なお、最新ベストアルバム「金森幸介」は、未発表曲も多く迷ったが、定義により上記ベスト5には含めなかった。公式HP(およびこのHP!)では「入門用」と謳っているが、その実コアマニア(幸介ヘッズ)向けレア私家盤「50/50」と全く同じ、ギター1本一発録音方式(しかも全部新録というのが、凄い!)で、なかなかに濃い。よって万人向けとは言い難いような気もする(「箱舟は去って」辺りの方が入り易そう)が、今なら普通のCD店でも買える(はず)なので、ビレッジプレス経由の他の作品を入手するよりはアクセス簡易で、まずはどうぞ聴いてみてください。大ヒットでもしようものなら日本音楽界も見込みがあろうと言うものだが・・。

<14年7月>