加川良編

1. 駒沢あたりで('78年作品)
 ベスト1は中期のこの1枚。息の合ったレイジーヒップの演奏をバックに、加川良の言葉と曲と歌が最高のドラマを繰り広げます。最初の「女の証し」で「いつまでさみしい女を続けていましょうか」と女言葉で濃い情念を歌い上げたかと思えば、駒沢やメンフィスの風景を切り取ったり、深い精神世界を表現したりと、これまでの集大成のような名曲揃いです。

1)君におやすみ
 どこか北の地方でのさすらいの旅の途中、季節は晩秋、大阪に残した女性を想いながら駅で朝まで来ない列車を待っているところです。「おなかにそっと手のひら乗せているのはいいなあ」「走るデッキにもたれハーモニカでも吹くのはいいなあ」と、豊かな時間の中で暖かくしっとりとしたラブソングに仕上がっています。

2)ビール・ストリート
 敬愛するブルーズのふるさとや先人達をゆったり、しみじみと歌い上げます。ミシシッピーはメンフィス、ビール・ストリートに行ってみたくなります。私自身は最近になって漸くジョンハートやジョンエステスに触れ、益々この歌に詰まった想いを噛みしめています。

3)祈り
 宗教色とは言いませんが、かなり悟りの境地に近いものを感じます。「私は目を閉じている風の祈りを聞いている それでもっと目を閉じてみる 見えないものが見えてくる」という深い世界が歌われています。このほか「愛をうたってみせるほど」や「オレンジキャラバン」もベスト3に入り得る名曲です。

2. 南行きハイウェイ('76年作品)
 石田長生、中川イサトに現地ミュージシャンを加えてR&Bの本場メンフィス録音されたこの作品も、高水準の詩に一段と冴え亘る乾いた音が弾け、憧れの地に立った加川良の歌も嬉しそうというか伸びやかで素晴らしいものがある傑作です。

1)北風によせて
 ここでも彼らしい放浪のホーボーソングが聞けます。「北風の中長い旅だった君の顔からあまりに離れてた 君がいないでさびしいよ」と、しかしどこか軽く明るく歌うこの歌こそが、この人の代表曲に相応しいのではないでしょうか。

2)ジョーのバラッド
 さすがは元GSということでしょうか、浮き沈みの激しい一人の博打打ちの一生を彼には珍しいようなタイトなロックナンバーに託して歌ったこの歌も、「ねえあんたオレのために一度でも祈ってくれたことがあったかね」と叫ぶ決めのフレーズやバックの演奏を含め、カッコ良く決まっています。

3)転がりつづける時
 オープンナンバーとして、実にしゃれたムードのハミングから「僕から差し出すものは何もない」と入ります。「戻ることの出来ない私に明日が昨日より若くいて欲しい」と歌われているサビは、どこか吹っ切れた<我が道を行 く宣言>のようなものを感じます。

3. アウト・オブ・マインド('74年)
 結果的に、中期の3枚がベスト3に並ぶのは、全体のバランスはともかく当然のことでしょう(この3枚は甲乙付け難い名作揃いです)。初期のフォークの世界から、片足カントリーロックの方に踏み出した感があるこの作品ですが、明るさが加わってこの人らしさが良く出ています。キングベルウッドの宣伝には確か「きわどい論理性が・・」とか、やや意味不明な解説がありました。最近再発されたばかりで入手し易いので、お勧めです。

1)ラブ・ソング
 「北の果てから南の街へほっつき歩いて何と言われようとやめられないんだ」で始まり「ほんとこの先僕は何をすればいいのかね 落ち着かないんだ」で終わるこのワルツは、この人のテーマ曲として、ホーボーソングとして、はまり過ぎる位の名ラブソングです。

2)つれづれなるままに
 かなり深刻で真剣な歌です。「ペンを握っていると答えてみろとも言われたが 所詮あんたとこの俺じゃ足の文数だって違う」と岡林のかぼちゃ音頭に通じる真実を歌い、「窓から抛り出せるものは すべて昨日捨てました 移り変わってゆくものは好きに流れて行けばいい」と吐き捨てる歌詞は、「たかが私にも」と並び彼から浅はかなフォークファンやジャーナリズムへの訣別とも取れ、歌うと痛快です。

3)あした天気になあれ
 このアルバムの軽さというか、脱加川良イメージに向けて、象徴的なポップなナンバーです。彼も岡林ほどではないにしろ、作り上げられた偶像とのギャップに悩んだのではないでしょうか。「ロードマップを広げたら僕の昨日が遠のいていく」「光る風とかげろうにもつれ川の流れに沿って あなただけがこの道のりを分かってくれる」と、この流れが、次回作「南行きハイウェイ」に結実することになります。なお、「こんばんはお月さん」も無論名曲ですが、重過ぎました。

4. 親愛なるQに捧ぐ('72年作品)
 代表作とされる「教訓」、フォークライブ「やぁ。」と並ぶURC初期3部作からは、これでしょう。2作目にして早くも十分に熟成しており、70年安保後のしらけた世代に受けた独特のネガティブな歌詞や節回しが堪能できます。人気度はこの頃が絶頂期で、岡林や拓郎より上のスターでした。

1)下宿屋
 高田渡(や岩井さんやシバ君<やウッディやジャック>)との出会いを歌った歌として有名で、未だに人気抜群のように見受けられます。私も高校当時、この渋い語りというか歌というかにすっかり魅せられ、人生哲学を教わったような気がしました。「あせって走ることはないよ待ち疲れてみることさ ため息ついても聞こえはしないよそれが唄なんだ」というサビはいつ聴いても沁みますね。とても20代前半の人の出会いや人生観とは信じ難いものがあります。

2)靴ひも結んで
 惨めソングとも言われたこの時期としては珍しい明るい曲調で、歌詞は「夏が終わって秋がやってくるように いつもあんたは一人ぼっちなんだよ」と自責しつつも、大滝詠一ほかのコーラス隊とともに「両足揃え靴ひも結んで出よう」とポジティブな感じにまとめ、聴いていて気が楽になります。

3)こもりうた
 優しい気持ちになれる歌です。「僕はさすらいの児気ままな風さ だからそう僕はさすらいの児でいよう」「心の中にまで北風が吹かぬよう いつか君の涙風がぬぐってくれるよ」という、彼らしいテーマが最初に歌われているように思います。ビデオ作品「50」のオープニングナンバーにもなっていました。このほか「コオロギ」も捨て難い歌です。

5. ONE('91年作品)
 後期からは、この作品でしょうか。段々と研ぎ澄まされ、突き詰めた感じになってきて、芸術色というかファンとしてはやや付いて行くのに負担感も出始めた作品ですが、シンプルにしてソウルフルな路線は、この後の「2」へと続く、現在の加川良の姿です(と言ってもかれこれ10年前・・、新作が待たれる)。

1)贈りもの
 地球と生命の故郷を歌ったスケールの大きな歌です。レゲエもブルーズも土佐も十勝も女も男も、みんな生まれは「神様の泣きぼくろ神様の忘れ物」=贈りものである地球。「太陽のそよぐ丘の上 海へそそぐ河の上」にあるあなたの(私の)故郷を歌っています。この頃岡林と同様、和太鼓のリズム隊にはまっていました。

2)アイ&アイ
 「ボブ・マリィがいっちゃった」とジャマイカはレゲエの神様ボブ・マリィの死を歌っています。前作ではジョン・レノンの死もテーマとなっており、当時は加川良と結びつかないような気もしたのですが、今や共通点が良く分かるような気がします。「水水水水 欲しいのは水」という歌詞は、かなりの破壊というか省略が行われた結果でしょうか、解釈が難しくなっています。

3)冬の星座
 「女の証し」路線にある女性言葉での魂の歌です。「私のハートさわって あんた今どこにいるの教えて ああ あふれそうよちぎれそうよ」と独特の上下動で汗を飛び散らしながら歌う姿は、見ている方が辛くなってしまう感があり、この辺が限界か?という気もします。冗談でなくピンカラ兄弟を超えたとでもたたえるべきでしょうか。

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 加川良のオリジナルアルバムのうち、未CD化の「プロポーズ」のCD化を断固求めたいと思います(再発されないのは社長だった松山千春の責任だろうか)。CD化されない場合、自分でCD-Rに焼いてしまうしかないのでしょうか。(註:2010年にCD化再発されました)
「コスモス」は彼のテーマソングで「ラブソング」や「日本海が広がっている」など、これも名曲揃いなのに・・!!。

 次回は、(いつになるか分かりませんが)いよいよ友部正人でしょう。