「吉田拓郎vs岡林信康」 ~日本フォーク界の重鎮対決~
2014年1月収録
拓郎:ようこそ、いらっしゃいました。今日のゲストは岡林信康さんです<拍手>。
岡林:こんにちは。妙な気分ですな。あなたと対談するのも。
拓郎:まあ、僕の好きなプロレスに喩えれば、A.猪木がJ.馬場に挑戦するようなもんですからね。
岡林:僕が馬場ね。挑戦を避け続けた。平和主義の。
拓郎:ところで、僕の方がお兄さんだって、知ってました?今回調べて分かったんですが、実は同級生で、僕の方が誕生日が3カ月以上早いんですよ<注;拓郎が1946.4.5。岡林が46.7.22>。
岡林:それは意外な事実やね。一般的にフォークの歴史を知っている人にとっては、衝撃的かもね。まあ、僕の方が先に売れた、ちゅうことやね。56歳で死んだ高田渡なんて、あの爺さん顔で2学年下だからね。人間分からんもんよ。
拓郎:僕が世に出た時には、岡林さんはもう「フォークの神様」でしたからね<苦笑>。ずっと目の上のたんこぶでしたよ。
岡林:君は「フォークのキング=王様」ちゅうことでええなない。中津川で政権交代も起きたし。
拓郎:あの後、田舎に引き篭もられたんですよね。
岡林:まあ、君のせいやね<苦笑>。ちゅうのは冗談で、とにかく先頭ランナーへの風当たりはきつかったんよ。毎日のように政治かぶれの連中から吊し上げられたからね。
拓郎:ご苦労様でした。ま、僕も岡林かぶれの連中から「帰れ」コールを浴びましたけどね<苦笑>。
ところで、岡林さんは名家URCでしょ。わたしゃ貧困エレック出身ですからね。コンプレックスがありましたよ。
岡林:まあ、URCも印税くれないとか、ひどいところだったけどね。高石ともやさんはいたけど、これまた実質的な先頭ランナーでいろいろ苦労したよ。
拓郎:岡林さんのバックは「はっぴいえんど」だったでしょ。僕の方は「ミニバンド」で、これも差が大きかったですね。このコンプレックスが、僕を昨今の「ビックバンド」志向にいざなったような気もしますね。
岡林:ところで僕の歌とか聴いてた?
拓郎:ライバル、というか倒すべき敵国として、聴いてましたよ。正直演歌じゃないか、とか思いながら<苦笑>。僕の歌の中に、「誰かが聞いた 岡林をどう思う♪」という歌詞が出てくるくらいですから。ラジオのディスク・ジョッキーとしても岡林さんの歌をかけましたよ。なんだか忘れたけど。
岡林:僕は悪いけど、君の歌を聴いたことがないんや。ま、僕の髪が肩まで伸びて♪とか、上弦の月だったっけ♪というのは、街の中で聞こえてきたけどね。
拓郎:田舎に引っこんでたんじゃないですか?
岡林:たまには東京とか来てたよ。ラジオもあったし。でも、当時聴いてたのは圧倒的にボブ・ディラン。そして三橋美智也、春日八郎、西川峰子やね<笑い>。
拓郎:フォーク・ロックから演歌に転向する辺りも、ボブ・ディラン(一時期カントリーに転向)の真似ですか?
岡林:いや、単に偶然やね。田舎で暮らしていると、四季のうつろいとか花鳥風月が身に染みてね。ただ、ボブ・ディランからは「何をしてもいいんだ」という精神は教えてもらった気がするね。
拓郎:僕は、正直「うつし絵」というアルバムを見た時、ああ、この人は終わったな、と思いましたよ<笑い>。ましてや最近はエンヤトットでしょ。付いてくるファンは居るんですか?
岡林:確かに、アルバムを出して変貌する度にファンを失っていくのが、僕の特性やね。でもエンヤットットから入ってくれるファンも居るのよ。
拓郎:本当ですか?
岡林:ま、あんまり若くないファンだけどね。
拓郎:ところでご趣味は何ですか?
岡林:金魚と伝書鳩やね。あと、農耕。
拓郎:これはまた、渋いっていうか、奇特な趣味ですね。
岡林:君は?
拓郎:これと言ってないんですが、まあ、ドライブしたり、ハワイ行ったり、通販で物買ったり、酒飲みに行ったりですかね。
岡林:奥さんを次々変えることとちゃうん。
拓郎:それを言ったら反則ですよ。岡林さんだって昔僕と同じ苗字の女優さんと・・・。
岡林:その話は勘弁してくれ。嫁さんに怒られる。
拓郎:でしょ?ところで、これからどうされるんですか?
岡林:最近元気が出てきてね。長年追求してきたエンヤトットも一応完成したし、昔のフォーク・ロックをやることにも抵抗がなくなってきた。「岡林四十五景」というオールタイム・ベスト盤も出したし、かわいい孫の歌も作ったし。もう1枚オリジナル・アルバムを作りたいけど、それが最後になるんだろうと思ってる。もう今年で68歳になるからね。お互い。
拓郎:僕は若いころは文字通り「元気です」って突っ走ってたんだけど、癌になったり、メンタル的にやられたりで、後半人生は多難でしたよ。
岡林:ま、鬱病と言うか、躁鬱上では君の先輩やからね。沈む時もあれば、浮き上がる時もあるって訳よ。最近の僕の信条は「すべてはプラス。すべては恵みの雨」だからね。多少躁鬱気味じゃないと、フォーク歌手はやっとれんよ<笑い>。
拓郎:なるほど。そんなふうにポジティブに生きられたら良いですね。
岡林:ま、共に長生きして、そのうち一緒に喜寿コンサートでもやろうよ。
拓郎:いよいよ馬場対猪木戦の実現って訳ですね。
岡林:僕は、はなから君と戦う気はないけどね<苦笑>。
拓郎:じゃあ、違う道だけど、お互い頑張って生きていきましょう。あ、いや僕の最近の信条は「ガンバラないけどいいでしょう」でした・・・<苦笑>。
以上
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