吉田拓郎編

第2回は、岡林からフォーク界の覇権を奪取した日本フォーク界のトッププレーヤー、「フォークの王様」と言われた吉田拓郎です。この人の良さは、その情熱と馬力、総合的なパワフルさにあるでしょう。最近のTV出演等は?マークで、元々毀誉褒貶も激しい人ですが、日本フォーク・ロック界に果たした功績(と罪)だけでなく、作品自体も虚心に見つめれば(音楽面も含め)十分に真剣でハイクオリティです。

1.今はまだ人生を語らず('74年作品)
・ベスト1はこの1枚。様々な意味で、拓郎最高潮期の勢いが全面に乗り移ったような素晴らしいアルバムで、歌詞、曲、演奏、歌唱等のバランスが取れ、死角がない。表題曲「人生を語らず」を初め、失恋の傷みが痛切な「僕の唄はサヨナラだけ」「贈り物」のほか、南沙織に捧げた「シンシア」、岡本おさみとのコンビで、森進一によりレコード大賞に輝いた「襟裳岬」が入っているのも、当時の音楽(歌謡?)界を席捲したという意味で象徴的であろう(それ故反発を感じる向きも多かろうが・・)。名盤。ただし、誠に残念ながら「ペニーレーンでバーボンを」の中に差別用語「***桟敷」があるというバカゲタ!理由で発売禁止となって久しく、現在は入手困難。せめてベストアルバム(タイトルのペニーレーンって皮肉?)でその他の曲を聴くしかないのが、歴史的損失と言えよう。

1)人生を語らず
・私の最も愛する楽曲。結婚式に出ると「今はまだ人生を語らず」と書く。「空を飛ぶ事よりは地を這うために、口を閉ざすんだ臆病者として」といった歌詞は(いかにも若いが)人生の指針となり、「超えるものは全て手探りの中で、見知らぬ旅人に夢よ多かれ」と励まされて生きて来た。強い意志の力を感じさせる。

2)僕の唄はサヨナラだけ
・高校の頃、ご多聞に漏れず失恋をしたが、「君が僕をキライになったわけは真実味が無かったていうことなのか」で始まり「二人でどこへ行っても一人と一人じゃないか」と“人は独り”という拓郎ワールドのキーワードに終わるこの歌は、恨みがましく歌うことで感情移入するのに最適(「捨てちまうよ君のくれたものなんて」と歌う「贈り物」もセットでどうぞ)。

3)ペニーレーンでバーボン
・四国の田舎者だったので、この歌を聴いて東京や原宿にあこがれた。「自分一人出歩いていたい、表参道ならなおいいさ」というのは、神社の参道かと思っていた(間違ってはいないけど・・)。「全てのものが何もかも移り変わってはいるものの、自分だけ意地を張り通して逆らってしまいたくなる時」が青春なのだろう。歌詞を変えるかインディーズで再発すべき。
・このほか、「知識」や「暮らし」も佳作。

 

2.元気です('72年作品)
・一般には、こちらをベスト1に挙げる向きも多い。若々しい感性とフォークといった枠に囚われない自由さがハジケており、多才さに圧倒される。歌詞カードの手書きコメント「フォークソングは自由の顔をした不自由な籠の鳥です。フォークシンガーになんかなりたくないのです」が当時の状況と拓郎の主張を如実に物語っており貴重。出だしの「春だったね」のイントロで歴史が変わったことを実感したという人がおり、最後の「ガラスの言葉」はロマンティック。

1)親切
・自分の世界に「土足ではい失礼」と立入って来る友達との友情とその破局を歌う。「ああ、今日もまたボブディランの話かい、やだね」から「これで終わりにしようよとどちらが言い出すか、そう、僕は君に言ってもらえると気が楽だね」まで、自我の強い若者のやや複雑な感情がうまく表現されており、共感できる。思ったことを歌にすればよいの代表作。

2)春だったね
・歌詞に、曲に、演奏に疾走感(ビートのノリ)があり、アルバムトップの曲に相応しい。「僕が思い出になる頃に、君を思い出に出来ない」という瑞々(ミズミズ)しい感情は、誰にも身に覚えがあるのではなかろうか。

3)まにあうかもしれない
・誰しも、自分が何者で、この先どう生きていくのかに思い悩んだ時期があるだろう。「僕は僕なりに自由に振る舞ってきたし、僕なりに生きて来たんだと思う。だけどだけど理由もなく滅入った気分になるのは何故だろう」はまさしく実感!。・このほか、「せんこう花火」や「こっちを向いてくれ」「リンゴ」も悪かろうはずがない(「旅の宿」や「祭りのあと」は、手垢が付き過ぎたような・・)。

 

3.ライブ‘73('73年)
・わが国最初の本格的ライブアルバムにして、名盤の評価が高い作品(結果的にこの時期の作品がベスト3となるのは、偏ってはいるが止むを得まい)。最初聴いた時は、迫力はあるのだが拓郎のボーカルがどうも小さすぎるような気がしたものだが、バンドとしての演奏(音楽自体)を全面に出したいとの本人の意向によるものと知り、今なら納得。「マークⅡ」など初期名曲の再演のほか、ファン(特に男性)に一番人気の「落陽」等が入っている。

1)君去りし後
・誰のことを歌っているのかは知らない(案外有名なタレント?)。しかしながら、作詞家岡本おさみが、混沌とした中から次第につまらなくなっていく当時の状況を良く表したものと思われる。「好ましからざる女だった君の監禁された唄」を聴いてみたいものである。「君が去った後はてんではっぴいになれないんだよ」と盛り上がって行くハイテンションの演奏は圧巻。この後の「君が好き」も良い。

2)都万の秋
・隠岐の島での漁師のおかみさん達の歌。有名になり過ぎてしまった「落陽」や「襟裳岬」などと同じ岡本おさみの旅唄シリーズのひとつ(「竜飛岬」「赤い灯台」も良い)。他の作品よりも、軽い自然さが良い。最初にギターで覚えた(弾きやすい)作品という意味でも愛着が深い。

3)マークⅡ‘73
・「たくろう」時代の古い作品の中でもポピュラーな1作。全体にありふれたラブソングのように見えて「年老いた男が川面を見つめて、時の流れを知る日が来るだろうか」という締めで違いが分かる。

 

4.フォーエバーヤング('84作品)
・中期拓郎のベスト作品。二人目の妻(浅田美代子)との離婚、三度目の(森下愛子との)結婚といった、重い私生活を背景に、「人生を語らず」時代に戻ったような(「ペニーレーンへは行かない」という返歌が象徴的)真っ正面からの人生をシリアスに歌う。

1)7月26日未明
・いかにも字余り拓郎節が遠慮なく炸裂する。「たとえそれが叶わない夢でも、自分を殺してまで生きるよりはまだましなのさ」に始まり「人生のメニューはいつも多すぎて、一つだけを選べないでいる」と続き「誰かとの出逢いで立ち止まっても、旅人を繋ぎ止める鎖はない」と、苦悩の果ての再出発を宣言。

2)大阪行きは何番ホーム
・2度の離婚を「今東京駅に立ち尽くす僕は、長すぎる人生の繰り返しと同じ」とツアーに喩え、「幸福という仮の住いに子供の泣き声まで加わっていた」(1回目)、「女は男より賢かったけれど、男は愚かさに身を任すだけ」(2回目)と振り返る。いずれにせよ「家を捨てたんじゃなかったのか」と繰り返す叫びは痛々しい。もともと父親との関係がうまく行かなかった家庭環境もあり、ファミリー(同名の曲も秀逸)に対する思いは複雑なようだ。

3)LIFE
・これまた沈痛な歌になってしまうが、結果的に愛をもてあそぶ人(マスコミや自分自身?)を深く静かに糾弾する作品。「愛する煩わしさも知らないで、多くを語るな何処かへ堕ちてゆけ」、「一人じゃ何も出来ないみんな美しいね」、「人が人として息づいているんだ」、「淋しさが今日もまた一つずつ消えて行く」といった重い言葉がちりばめられている。

 

5.Long Time No See('95年作品)
・後期(になるかどうか定かではないが)を代表するアルバム。アメリカ西海岸の70年代を代表するトップミュージシャンをバハマに集めてレコーディング。落ち着いた音があくまで渋く響く、大人の本格派アルバム。ペアとなる次作「感度良好波高し」も甲乙つけ難い。

1)淋しき街
・ある時期からの拓郎の作品は、あからさまに過去を振り返るものが多く、それが良い時と「いい加減前を向いてよ」と思う時があるが、この作品での「君が求めているのは僕じゃない、僕は何かの代りになれはしない」というフレーズは、過去からの多数のファンの熱い思いへの訣別宣言ともとれる。「僕についてもう話さないで、少しばかりやましさを感じ裏切りの気持ちを抱いているから」というところに、より鮮明(だからキンキと・・という訳でもなかろうが)。

2)オーボーイ
・これも、1)と基本的に同じ流れにある(石原信一の拓郎代筆か)が、いずれも演奏を含め大人のロックとしてキマッテいる。「俺はもう吠えたりしないよ」、「お前で歴史が変わりはしない」から「俺はもう踏まれていいのさ」にまで至ると辛いものがあるが、それもまた人生?。

3)君のスピードで
・おそらくは愛子婦人との落ち着いた生活を背景に(よもや4人目ということがなければ)、「生まれ変わることは出来ないから、全てを一つにしなくて良い」と互いのペースを認め合ったうえでの大人の愛が歌い込まれており、曲調も拓郎らしからず?しゃれている。

 吉田拓郎の34枚程に及ぶオリジナルアルバム群から、たった5枚を選ぶこと自体がかなり無理があった。そこで、捨て難い7枚(と曲)を追記しておく。通説とはやや異なるラインナップかもしれないが、いずれを買っても損はない。
6.情熱(83年:若い人、情熱、I'm in love)
7.Shangri-La(80年:又逢おうぜあばよ、街へ、愛の絆を)
8.大いなる人(77年:大いなる、乱行、おいでよ)
9.デ・タント(91年:たえなる時に、ひとりぼっちの夜空に、友あり)
10.サマルカンド・ブルー(86年:人生キャラバン、ロンリーストリートカフェ、パラレル)
11.ひまわり(89年:帰路、楽園、ひまわり)
12.アジアの片隅で(80年:アジアの片隅で、まるで孤児のように、この歌をある人に)

 さて、次回は、このHPで人気の高かった高田渡か加川良辺りを予定している。乞うご期待。

<12年3月>