何もこんな

何もこんなところで待ち合わせなんかしなくても。
雨のデパートの午後の屋上。

何組かの人々が、安っぽい青ビニールテントの下で、ぽかんと雨を見ている。
二人の孫を連れたお婆ちゃん、マメ記者の入口の、板に書かれたCLOSEDの文字は読めるのかい?
高校生らしいカップルの男はジャンプを黙々と読み続け、女はストラップに埋もれた携帯をもてあそぶ。
何のために会ってるの?
さぼりのサラリーマンがため息をつきながら眺めているスポーツ新聞は霧雨に濡れてしわくちゃだ。
君の人生みたいだね。
いつも働き者の讃岐うどんの小母ちゃんも、今日ばかりは椅子に座ったままだから、頭の先っちょしか見えないよ。
水溜りの緑の人口芝の上を、一羽の鳩が行ったり来たり。
屋上遊園地は、いつから寂れてきたんだろう。
昔は観覧車や釣堀、輪投げに、果てはお猿の電車やペンギンまで。
なんでもありだった。
日曜日になると、何故かネクタイをした父さんに連れられて、屋上で一日遊んだものだ。
階段を半分下りて、大食堂でざるそばとクリームソーダ。ざるそばにはうずらの卵がついていて、父さんが器用に割ってくれた。

小雨が激しくなった夕暮れの屋上庭園には人気がなくなったよ。
ビールでも、と立ち上がる自分には、もうあの日の童心を語る資格などあるはずもないのに。でも…。

 西の空のむこうに 夕日がしずむころ
 いやなもんだネ あの娘のうしろすがたっての

 街はネオンが夜をいろどる 街はネオンが夜をいろどる
 ビルの上は風がつめたいよ ビルの上は風がつめたいよ