高三だった頃、毎晩午前零時を過ぎて夜汽車の呼び声を聞いた。
どこへ行くのか、どんな人を乗せているのか、悲鳴に近い「僕は行くよ」って声を撒き散らしながら消え去るのだ。
無性に外を見たくなってあわてて窓ガラスを開いたとき、正面にまん丸お月様を見つけて心慰められたこともあった。
試験前にはこれから朝まで一人きりで起きていなければならない孤独が身に染みた。
静か過ぎる灯のないこの町から逃れてあの汽車に飛び乗りたかった。
が、僕にはそのための切符が必要だった。
それは東京の大学に合格するということだった。東京のラジオ放送が雑音の中、深夜になってやっと届いて歌に元気付けられた。
呼んでるよ
呼んでるよ 夜汽車がさ
呼んでるよ どこへ行くのかね
夜汽車に乗って どこへでも
どこへでも 行くだろさ
どこへでも
誰と行こうかね
夜汽車に乗って
行きたかないね
どこへもさ どこへもさ
行きたかないね
でもここにゃいられない
で 夜汽車に乗って