T's Selection 2018

日本フォーク・ロック:ベストアルバム選2018(by T)

「日本のフォークソング」ホームページ」にご来場の皆さまに、最新時点でのお勧めアルバムをお示ししたい。

私の考えるフォーク・ロックの定義や選盤基準は、以下の通りである。
<注>本稿はあくまで「T」の個人的な意見であり、当HPの「だいたいフォークな感じで」とは異なる。

<前文> ~ フォークとは何か。なぜ歌い、どう聴くのか ~

「フォークソング」であるから、字義通りに訳せば『民衆の歌』である。具体的には、以下の3条件を備える。

第1条:生き様が反映されていること
・当該アーティストの人生なり思想が作品に反映していること。
・歌いたいことがあるから、その通り作品にして、自分の言葉で歌っていること。
・つまりは、歌っているように生きて(生きているように歌って)いること。
・生身の人間が表現されるのがフォークの特徴である。
・このリンクがなく、本人と生活とはかけ離れた歌ばかりだと、職業作家との違いがなくなる。
・誰も阿久悠や筒美京平を(フォーク調の作品はあるが)フォークとは呼ばないだろう。作り上げた歌なら、ユーミンやサザンの方が良い。

第2条:何らかのメッセージがあること
・反戦歌など、何かに異議を申し立てるプロテストソングが代表的だが、表立った主張がなくても、歌には何らかの志やメッセージが籠っているはずである。
・歌のテーマは愛、だけでなく、反抗、挫折、紛争、貧困、孤独、自由、解放等が有り得る。
・これらから目を逸らすことなく真正面から向き合い作品に昇華することが望ましい。弱者の視点からの主張が中心となろう。
・これが「ヒット目的で書いた」「適当にそれらしいものを作ってみた」ということになると、フォークとは呼びにくい。

第3条:圧倒的な個性があること
・アマチュアとの大きな違いとして、プロのフォークシンガーには、持って生まれた圧倒的な個性がある。
・その第一音、は大袈裟としても、第一声を聴いただけで「誰それだ」とすぐに分る声や歌い方、唯一無二のオリジナリティを持っている。
・一方で、曲やコードは昔からの伝承(パクリ・オマージュ)で差し支えない。
・わが国では、1970年前後の才能の集中が典型的で、特異な個性や人間性の持ち主が多くフォークソングに流入した。
・その後の2番煎じは、一部の例外(中島みゆき等)を除き第一世代を抜けない状況にある。

 <お勧めアルバム選出の趣旨>
・当HPに来場される以下のような方々に、アルバム選定のガイドラインを提示する(偏りはご容赦)ことにある。

(1)若者
・最近、誰かのカバー等によりJ-POPの源流である「日本フォーク・ロック」の存在を知ることになった若い方。

(2)先輩
・定年を迎えるなどにより、久方ぶりに昔好きだったフォークを趣味にしようと思っている団塊の世代ないしその前後の中高年諸氏。

・好みが分かれる分水嶺は、「音楽に何を求めているか」という点にあるのだと思う。

・消費財としての「娯楽(エンタテイメント)」や癒しを求める方には、フォークソングはお奨めしない。「歌詞よりも曲やテクニック」、「ドライブのBGMに」と言う方も同様である。
 
・人生の同伴者として、「歌に生きる意味を探す方」、「人生の真実を追求したい方」にこそ、以下にお勧めするアルバム群は恒久財としてお奨めである。

<基本編・応用編・通編の定義>

(1)基本編
・まさしく「ここから入ると良い(間違いない)ですよ」との選盤。
・基本的で良く知られている(世間の評価も比較的高い)アルバム。

(2)応用編
・基本編を卒業された(既に知っている)方には、少し難度の高い?「この辺りを聴いて頂きたい」との選盤。

(3)「通」編
・これぞマニアック!?ここまで制覇したら「俺はフォーク通だ」と名乗って間違いない。

<お勧めアルバム本文>
Ⅰ.基本編
「元気です。」(吉田拓郎)
・拓郎の元気パワー全開。向かうところ敵なしのフォーク界の寵児ここにあり。参ったか盤。

「ごあいさつ」(高田渡)
・高田渡が頑張って作った代表盤。全16曲に高田渡とフォークの神髄が宿っている。

「見るまえに跳べ」(岡林信康)
・岡林の疲弊した悩める心が、はっぴいえんどのロックに乗せて激しく叫ぶ。フォークの希望と蹉跌がこれ。

「にんじん」(友部正人)
・剥き出しの心臓に触ったようなリアルさとざらざら感。日本フォーク界の至高がここに。

「満足できるかな」(遠藤賢司)
・ワンアンドオンリーのエンケンワールドその1。研ぎ澄まされた神経が産み出すピュアな音たち。

「親愛なるQに捧ぐ」(加川良)
・良質な歌詞とメロディに演奏、そして歌唱。「フォークの原点」と言うなら、ここにある。

「光と影」(泉谷しげる)
・脂の乗った泉谷の優れた歌詞に、加藤和彦がレゲエ風の味付けを施しミカバンドが演奏。文句なし。

「この世で一番キレイなもの」(早川義夫)
・40になっても50になっても、この世で一番キレイなものは一つだ。大感動の25年振り復活作品。

「きのうの思い出に別れをつげるんだもの」(ディランⅡ)
・記憶の中にある原風景。少年たちの夢と諦め。不気味なまでの現実感を離れた楽曲。ザ・グレー・ファンタジー。

「六文銭メモリアル」(六文銭)
・フォークは岡林や拓郎、高田渡だけじゃない、ことを思い出させてくれるメモリアル。賞味期限無限大。

「遠い昔ぼくは・・・」(大塚まさじ)
・ひとつのドリーム、ひとつの鬱屈、遠い昔ぼくは何だったのか・・・。不可思議なまさじワールドへの出発港。

Ⅱ.応用編
「ラブソングス」(岡林信康)
・フォークの神様とまで呼ばれた岡林の裸心の履歴書。「みのり」「男30」「カボチャ」ほか、人生が沁みる。

「今はまだ人生を語らず」(吉田拓郎)
・拓郎最盛期の大傑作。単にフォークの・・という枠を飛び越え、日本を代表するアルバム。断固元のまま再発すべし。

「'80のバラッド」(泉谷しげる)
・現代のあるようでないような不安と孤独。未来都市の捉えようのない形状。現代詩人が叫ぶ泉谷。

「駒沢あたりで」(加川良)
・大きな揺り籠に包まれ揺れるような温かな安心感。奥深い歌の包容力に、深く深呼吸。

「どうして旅に出なかったんだ(1976)」(友部正人)
・友部がボブ・ディランに並び立った名盤。旅に出なかった者たちを指弾する鋭さ。言葉は凶器である。

「街行き村行き」(西岡恭蔵)
・ゆったりのんびりした人生観。ほのぼのした曲とたおやかで温かな歌唱。ファンタジーの傑作。

「バイバイグッドバイサラバイ」(斉藤哲夫)
・斉藤哲夫の文学者的な要素とソングライターとしての才能が高度にマッチングした名作。

「プロテストソング」(小室等)
・プロテストソングは反戦歌だけじゃないんだと、谷川俊太郎作品の中から深く訴えかける歌たちを結集して送る名盤。

「日本少年」(あがた森魚)
・あがたワールド全開のトータル・アルバムの傑作。小樽発世界行き。演奏陣も、はちみつぱいほか豪華絢爛。

「石」(高田渡)
・高田渡3部作(ごあいさつ・系図)の終結点にして、人生を悟り切った傑作。前2作品のような遊びや受け狙いが消え、孤高の世界に。

「25年目のおっぱい」(中川五郎)
・純粋に日常の想いや恋愛などを「嘘偽りなく」描くとどうなるか。フォークの原点から中川五郎が教えてくれる。

「旅するソングライター」(浜田省吾)
・中島みゆきと並び立つ第二世代として、人生と社会と愛情を完璧なバランスの詞・曲・編曲・演奏・コーラスで奥深く描く。

「あの日、ボクらは」(金森幸介・いとうたかお)
・売れないフォークの達人2人が、互いの持ち歌を高いスキルで巧みに演奏。最新時点でのフォークの正統派がこれ。

3.「通」編
「静かな音楽になった」(金森幸介)
・純粋にソング・ライティングを極めるとこうなる。繊細かつ奥深い魂の歌たちをオープン・エアで録音。純音楽の結晶がここに。

「唄う人」(オクノ修)
・唄うことと生きること。考えること歩くこと。人生の様々なシーンを透徹したフィルターで漉した味わい深い珈琲作品。

「街はステキなカーニバル」(岡林信康)
・安定したフォーク・ロックに乗せて、良質な人生歌が綴られる。神様がここに定住してくれたら・・・、と思う作品。

「血を超えて愛し合えたら」(豊田勇造)
・日本人が作ったレゲエの傑作。スケールの大きなユニバーシャル・フリーダム、大きな自由をあなたに。

「さよならおきなわ」(佐渡山豊)
・沖縄対日本、といった対立の枠を超え、より大きな視点から世界と日本と人間を表現した名盤。

「トーチカ」(休みの国)
・乾燥した世界観。透明な人生観。ハイレベルな精神分析。こうした作品が日本に生まれたことを祝おう。

「無残の美」(友川カズキ)
・弟の自死までをも目を逸らさず「きれいだ」と見つめる眼。友川にかかると全ての人生を突き詰めることになる。覚悟して聴くべし。

「また見つけたよ」(友部正人)
・友部正人の恐るべき歌たちは何処から産み落とされるのか?殆ど詩の神様が宿っているとしか思えない。詩人友部の頂点。

「東京ワッショイ」(遠藤賢司)
・エンケンはフォーク歌手なのか、ロック歌手なのか。そうした既成観念をぶち壊すパンクの名作。このハイテンションは世界最高記録保持中。

「FarewellSong」(西岡恭蔵)
・愛妻にして盟友Kuroさんとの永遠の別れに対する鎮魂歌。このアルバムを残して自らも死ぬ。

「き・み・は・す・ば・ら・し・い」(小坂忠)
・「音楽で聴く聖書」。挫けそうな人、悩める人、悲運な人達に寄り添い、優しく、しかし力強く救済。

「ザ・平成唱歌集:巻之一」(野坂昭如)
・とんでもなく面白い!老人力、役立たず、政治家、東大、ディズニー、病人、そして日本を、徹底的にパロリまくる傑作。

「歌は歌のないところから聴こえてくる」(早川義夫)
音楽とは何か、父親とは何か、性欲とは、躁と鬱とは、・・・そして隣の猫のミータンとは。私小説的な世界の到達点。

「午前中に・・・」(吉田拓郎)
・朝から何もやる気がしない現実。フキが大好きだという事実。昔5番アイアンで乱闘したというヨタ話。そうした毎日に悩む「元気でない」拓郎の魂。