昼下がりの

昼下がりの電車の吊り革にぶら下がって雲を見ていると、つい眠りに落ちていく。
その時いつも頭をよぎるのは同じ光景だ。
この急行電車が目指す大きな駅ビルの、どこかに住まう白髪の爺ちゃんの姿だ。
かつて放浪詩人山之口さんを愛し育てたこの街で、昼といわず寄るといわず、東口から西口へ、そして北口へあちらこちらに追い立てれながら、薄汚れた地面に腹ばいになっている爺ちゃんだ。
陽気がいい昨日は地上に出て、地球のあったかさを両掌で感じ取ろうとして、やっぱり腹ばいで寝ていたよ。
横断歩道の隅なんて、いつまでいられるものなのか、つかの間の夢を求めていたよ。


 歩き疲れては夜空と陸との隙間にもぐり込んで
 草に埋れては寝たのです所かまわず寝たのです
 歩き疲れては草に埋れて寝たのです
 歩き疲れ寝たのですが眠れないです


近くでアクセサリーを売るユダヤ人だけは時折優しい目を向けるけど、宝くじやの二人のおばちゃんは迷惑そうにひそひそ話を始めたよ。
その枕元を何事もないように風のように通り過ぎる何百本の日本の早足たち。
余計なおせっかいと思われるのを遠慮するのか。
うかうかしてると自分だってと思って焦っているのか。
もっともこの自分だって、たった5分の時間を惜しんでこうして今日も混んだ通勤急行に乗り込んでいるのさ。

もう到着する世と車内放送が聞こえてきた。今日も何もできない弱虫の自分は爺ちゃんの姿を探さないではいられない。