旅はまだ続いている

旅はまだ続いている。

左手に時々浅間の噴煙を見ながら、林間道を1時間近く歩き続けた。萌黄色の落葉松の枝が風に吹かれて揺れていた。
斜面を何度も上り下りすると、緑の中から煉瓦造りの三角屋根が現れた。それが結構素敵なレストランだったんだ。

信じることって大切だね。
その店の前には、ちゃんと赤い小さなポストが僕を待っていてくれた。
空腹って勇気を呼ぶね。
CLOSEDの木札のかかった重いドアを開いた僕は、結局オーナー手作りのパスタにありつくことになる。
「昔ジョンレノンがこの辺りに来たって本当ですか」
「ああ。テラスの椅子に座ってコーヒーをお代りしたらしいよ。ヨーコはいなかったらしいけど。君はレノンが好きなの?レノンは生きてるとき悪口言われっ放しだったんだよね。人の評価は難しいよ」

僕が仕事に行き詰って放浪していると知って、そんな話をしたんだろう。
テーブルの紙のコースターにDon’t think twice, it’s all right. と書いて見せた。
「高原は秋の訪れが早い」とも言った。

僕はだんだん居ても立ってもいられなくなってきた。夕日が店の中に差し込んで来たし。
で、バス停の場所を聞くはめになる。帰り際に例のポストに近づいて、君への便りを手にしたけど、出すのは止めたんだ。甘っちょろい言葉とお別れしたいと思って。もう一度自分と戦ってみたいと思って。
 


 この道がどこを通るのか知らない
 知っているのはたどりつくところがあることだけ
 そこがどこになるのかそこで何があるのか
 わからないままひとりで
 別れを告げて旅立つ