今日は土曜日


今日は土曜日だ。
午前零時14分発の地下鉄有楽町線池袋行きの最終便を待ち続けている。

コンクリートに囲まれた冬のホームは冷え切っている。
ホームにはぽつんぽつんと立ちすくむ酔客たち。
一様にお互いの距離を置いたまま、じっと前を向いて黙りこんでいる。
薄暗い壁には何が見えているの。
さっきまで語り合っていたお洒落な恋人の横顔?深い眠りに落ちているだろう最愛の娘の寝顔?静かな時間。
「ええ?ええ?」という強い声にみんな振り返る。
五人掛けの青椅子の真ん中に座った男が携帯を耳に押し当てたまま涙ぐんでいる。
座席の横にはくしゃくしゃに捨てられた東京スポーツ。
男の足元に転がったオロナミンCの空き瓶。
殺風景な壁と暗闇に消える二本のレール。
ここは今の君にお似合いの場所だね。
ここなら存分に泣ける。
人生に落し物はつきものさ。
多くの人は喪ったままだけど、後で気付いて取り戻すこともできる。
君がたとえ涙で次の最終便に見捨てられたとしても、じっと時を待っていれば夜は必ず明けるし始発も来る。
それだけは確かだ。

おっと、暗闇からゴウゴウと音を響かせて迎えが来た。僕はお先に失礼するよ。良いお年を。
 
 人生はだらだらと続いている冗談なのさ
 そうさそれもとびきりたちの良くない奴さ
 
 酔いどれ女のうめき声みたいだ
 地の闇をメトロは沈んでく
 
 だけどこいつにのると気分がやすまるよ 
 みんな俺とおんなじ顔をしているからさ