佐渡山豊編

 人物編18回目は、沖縄返還40周年を記念して、沖縄代表のフォークシンガー「佐渡山豊」さんです。 この人の場合、沖縄、特に基地問題をはじめとする様々な問題を、濃いアイデンティティとして背負って歌っている感が強い。
 今回改めて全アルバムを聴き直してみたが、デビューアルバムの1曲目が「沖縄は混血児(あいのこ)」であることに象徴されるかのように、どのアルバムにも各種の歌が混在しており、統一感は少ない。フォーク風、ロック風、歌謡曲風、民謡風、コント風と、正にチャンプルー(ごちゃまぜ)と言えよう。因みに「コント(お笑い)は要らない」と思っているのは私だけではない。ウチナ―グチ(沖縄方言)だけで歌われると意味が分からないのも困りものだ。
 全体に歌うきっかけとなったという岡林信康と、エレックレコードの大先輩である吉田拓郎の影響が感じられる。歌の内容とか作風とか。
 私自身の思い出としては、東京労音(R'sアートコート)でのライブをH管理人さんとともに最先頭で見、沖縄そばを御馳走になり、サインをもらって帰ってきたことがある。
 基地問題に関しては、今年1~3月のドラマ「運命の人」を見るなどして、いろいろ考えた。私見を述べるならば、元々「非武装中立で良い」と考えているので、「基地は要らない」。ただ、現実に中国等が覇権を伸ばしつつある中で、東アジアの防衛力を維持・強化しなければならないという立場に立つならば、沖縄に過度の負担がかかっている現状もやむを得ない、と言うのが苦い結論だ・・・

1.さよならおきなわ('97年作品)
・ベスト1は、20年の空白期間を経て見事に復活したこの作品。復帰作にしてこの高水準は、早川義夫のそれ(この世で一番キレイなもの)を彷彿とさせる。なお、沈黙期間中何をしていたのかの情報は殆どなく、謎が多い。ところでアルバムジャケットの母娘は、妻子なのだろうか。

1)ドゥチュイムニー(独り言)
・いくつかの作品に登場する自他ともに認める代表曲。いろんな思いや疑問、怒りや絶望を延々と積み重ねながら歌っていくスタイルは、吉田拓郎の「イメージの詩」に似ている。ただし、こちらの方が長く(少なくとも39番まではある)、かつ歌い続けられる中で歌詞もその都度変わってきている。
・「唐ぬ世から大和ぬ世 大和ぬ世からアメリカ世 アメリカ世からまた大和ぬ世 ひるまさ変わいる くぬ沖縄」
・「信じることから始めようか 疑うことから始めようか 時々こんがらがることもあろう 優柔不断な赤花」

2)追憶の一号線
・永い時間と空間の中で、移り変わるものを雄大かつ繊細に歌った歌。
・「女神はその時宇宙(そら)に向かって 白い両手を広げてた    生存(いき)てることの喜びを知って 祈りの言葉を覚えた」
・「少しずつ 少しずつ 朝が来た 少しずつ 少しずつ 朝になる」 3)あるがままに・自然体で生きていく中で、子供の誕生等をいとおしく思い出す歌。
・「十月は神無月 お前が生まれた 父さんや母さんは お前を両手に抱いた  麦の穂が風に揺れ 小鳥たちも謳ってた 晴れ渡る空には白い雲さえあった」「そう あるがままでいい また 一日が終わる そのまま目を閉じれば もう夢の中」

4)アラスカ
・5枚目のアルバムが2曲なので、このアルバムから4曲目を紹介したい。
・アラスカを旅して雪のマッキンリー等を見物した様子が歌われている。あの佐渡山豊が敵国アメリカに!?、という意外感がある。NYやWDC、LAには足を延ばさなかったのだろうか?
・「アラスカ ここは アメリカ 沈まない太陽のあるところ アメリカ ここも アメリカ もう冬の風が吹いている」

 

2.空っぽな空から('00年作品)
・第2位は、2000年に発表されたこの作品。充実した豊作期だったらしく、ハイレベルな歌が全体に良く纏まっている。

1)芦屋無頼によろしく
・芦屋に住む敬愛する詩人、白井道夫氏のことを歌った歌。阪神大震災がテーマとなっており、悲惨な中にあっても心が温められる。
・『崩れた我が家の片隅に割れ残ったウイスキーがあったので記念にそっちに送ろうなって幸運(うん)の種の御裾分け全ての言葉が歌になり芦屋無頼の言葉が 「夢よ足元で目を醒ませよ」と瓦礫に花も咲きました』

2)石敢當
・沖縄の伝統的な魔よけの石碑、お地蔵さんのような道標の石敢當を歌った大作。この歌の意味は深く大きく、21世紀のテーマソングかもしれない。
・「陰(マイナス)の紀元から陽(プラス)の紀元 そして 二千年 顛倒のようで詮であり 鮮のようで転である シーガンタン 石敢當よ 我が夜路を照らせ」
・「初め此々にひとつ意志が在り 空蝉の世の微風に吹かれ 曝されながらも 石は意志 祀られて なお 意志は石 生き霊たちの邪気を祓い 魑魅魍魎どもを治めたり シーガンタン 石敢當よ 我が夜路を照らせ」

3)今夜はガウディ
・スペイン旅行の体験から、バルセロナのガウディの建造物などに出会ってできた曲
・「今夜はガウディ ワインでも飲んで 独り 酔いたい気分だ 教会の晩鐘(かね)の音よ 地中海までとどけ  夢幻の方舟に僕を乗せておくれ ガウディ」

 

3.存在('76年作品)
・第3位は、比較的初期ながらタイトに決まったこの作品。全体にロック色が濃い構成となっており、特に前半が圧巻である。

1)ひまわり
・絶望の淵から希望へと灯りを点すような歌。
・「たかが、たかが地球じゃないかって あいつが言うなら  たかが石ころじゃないかって言えばいい生れ落ちたその朝咲いたひまわりは どんぶり鉢にだって育つんだ」

2)運命のビーナス
・失恋の悲嘆をベースに人生の運命論超えを歌う。
・「長生きするんだよ 君は海の泡 生き長らえることが肝心だろ  どんな立派な運命論よりも」

3)市場の銀蠅達に捧げる歌
・夜に紛れて悪事を働く何者か(社会)を糾弾する歌。
・「誰がこわし 誰が作る 何がこわれ 何ができる 生きながらえて 見逃しはしない 明るいうちだな 歩いてやるさ」

 

4.時間のカケラ('09年作品)
・第4位は、最新作のこれ。ただし採用した歌は再録ものが中心となった。

1)No More Rain
・初出は「空っぽな空から」。ボブ・ディランの歌(はげしい雨が降る)と同じく、雨と爆弾とを連想させるプロテストソング。
・「殺戮虐殺暴虐 掻き消された兵士らの詩 啜り泣く声に重なって 世界が壊れる音がする」
・「No More Rain 降らさないでおくれ No More Rain せめて子供達の為に」

2)変わりゆく時代の中で
・初出はセカンドアルバムの「仁義」。タイトル通り+前向きな歌。
・「ふるさとの街の上を いたずらな風が吹き荒れてる いつになれば友よ ぼくらは 祖国をふるさとと呼べるだろうか 全ての古いものが新しいものの中で もしも流れを変えるなら 変りゆくこの時代の中で ボクは今みんなと生きていたい」

3)第3ゲート
・沖縄で起きた米兵による犯罪(殺人や事故、14件にのぼる)を、歌の間に年代順に読み上げていく歌。これを聴いていると、改めて数多くの犯罪や沖縄の人たちの怒りが重くのしかかってくる。
・「1955年 9月 嘉手納町 6歳の女の子 米兵に殺害される・・・」

 

5.獏<詩人・山之口獏をうたう>('98年作品)
・第5位は反則技を承知の上で、V.A.によるオムニバスのこの作品。この作品自体が、高田渡監修の下、最高傑作であるが、その中でも佐渡山は抜群のパフォーマンスを発揮している。

1)紙の上
・鮮やかなまでの反戦歌を最高にカッコ良く歌い上げ秀逸。ウォーウォーウォー!・「一匹の詩人が紙の上にいて 群れ飛ぶ日の丸を見あげては ダダ ダダ と叫んでいる 発育不全の短い足 へこんだ腹 持ち上がらないでっかい頭 さえずる兵器の群をながめては ダダ ダダ と叫んでいる」

2)会話
・「お国は?」との女からの問いかけに、沖縄と言わず形容していく歌。
・「アネッタイ!と女は言った 亜熱帯なんだが、僕の女よ、目の前にみえる 亜熱帯が見えないのか!この僕のように、日本語の通じる 日本人が、即ち亜熱帯に生まれた僕らなんだと 僕は思うんだが、酋長だの土人だの唐手だの泡盛だのの 同義語でも眺めるかのように、世間の偏見達が眺めるあの僕の国か! 赤道直下のあの近所」
 以上が、アルバム5枚の紹介である。なお初期の2作はシングルで先行発売されたドゥチュイムニーが含まれていないこともあり、「BEST・エレック・イヤーズ」(ベストアルバムは普通お勧めしないのだが)でも十分である。その中に「しゃぼん玉」「おまつりちょうちん」「かけっこ」「仁義」などの佳曲が含まれている。  さて、この「T's Selection人物編」もそろそろ種切れの感が深く、次回作の予定は当分ない。 H管理人さんによる「あがた森魚編」か「友川カズキ編」の登場が期待されるところである。 管理人談:取り上げてほしい人物のリクエストがあれば管理人までどうぞ。