遠藤賢司編

 人物編13回目は、ついに破格の巨頭、遠藤賢司(エンケン)さんです。この人ほど形容が定着している人は珍しい。曰く「言音一致の先天性純音楽家」「史上最長寿のロックンローラー」「不滅の男」。ご本人が歌や口上で述べているので間違いない<笑>訳ですが、孤高の超個性は確かに宇宙規模の唯一無二振り。フォークからの距離とポジションや天才ぶりは、案外、井上陽水氏と共通するような気もします。曰く「俺の出す音は全て俺の魂の叫びである」「人は皆、それぞれの時をそれぞれのリズムで、この宇宙を生きる偉大な純音楽家だ」「創造魂に対する責任感こそが才能だ」。
 囁くような繊細溜息から、アンプを背負い爆音ギターによる数十分の酸欠パフォーマンスまで、その音圧の落差はニール・ヤング級のワールドクラス。普通の人がそのプレイを見たら、異様・異常なものを感じてしまうこと必至。
 興味は猫(何せデビュー作が「niyago」で最新作が「にゃあ!」)から宇宙、「通」好み、カレー、サッカー、プロレスなど森羅万象に幅広く、音楽的にはフォーク枠では括りようがなく、ロックは当然として、パンク・ニューウェイブ・雅楽・歌舞伎に跨る巨人ぶり。
 歳を取るほどに益々お元気を通り越し、エネルギーを爆裂させているのは殆ど地球人離れしており、06年4月に始まったNHK「フォークの達人」の第1号に選ばれたのも、むべなるかな。団塊世代だけでなく、若者のファンが多いことも特筆ものの「現役」。その本気度=「命の血潮」に打たれるほかなし。
 この秋には、長年に亘り発刊が遅延しもう無理かの「遠藤賢司大特集」本もついに発売されるか、と思ったら、出ないまま越年・・・<苦笑>。

1.満足できるかな(‘71年作品)
・ベスト1はこの1枚。URCから出したセカンドアルバムにして、日本フォークの黎明期を代表する大名盤。ニューミュージックマガジンが、はっぴいえんどの「風街ろまん」をさて置いて、第1位に選んだ逸品。・エンケンの唯一無二のセンスと「これぞ日本のフォーク・ロック」と言わんばかりのはっぴいえんど(マイナス大滝詠一=細野・鈴木・松本)的サウンドが冴え渡っている。ジャケットの愛猫「寝図美」とのショットも暗く怪し過ぎる。

1)満足できるかな
・この歌のスケールは大きい。正しく日本フォーク・ロックの夜明け的な音楽に、相当シュールでアングラな歌詞が乗っかり、こんな歌はこれまで無かった=革新的な歌と思う。
 「君はとっても嬉しそうに僕の首を切る あ~ギーコラぁ」「誰だい僕の真っ赤な血を舐めるのは・・・」の後にタイガースの明るい歌(シーサイドバウンド)が来る訳だから、このミクスチュア・センスは傑出している。

2)待ちすぎた僕はとても疲れてしまった
・恋愛模様、というか、恋愛感情において(と言えるほど詳しくないが・・・)、この歌のタイトルのような事態に陥りがち。絶妙のフォーク・ロック的リズムとサウンド。
 「もうずっと待ってた僕はとても疲れちゃったよ だからもし君が来ても 君を抱くことも出来ないかもね」「でも君のノックがあれば崩れ落ちることは分かってたけど」

3)外は暑いのに
・このアルバムは名曲だらけで、有名な「カレーライス」や「おやすみ」「ミルク・ティー」「寝図美よこれが太平洋だ」など、どれを選ぶか迷うが、この曲のなんとも言えぬ、日常に潜む幸福感の裏側の孤独感・悲壮感、のようなもの、掻き毟るようなギターとハモニカに一票。
 「とても古くてとても可愛い 四つ葉の黒い扇風機は 生あったかい声でぶ~んぶ~ん話しかける はははぁ」

 

2.東京ワッショイ(‘79年作品)
・ベスト2は、「1か」とも悩んだこの作品。キングベルウッドから世紀末の大東京に爆発した、日本ロック&パンク&ニューウェイブ&テクノを代表する歴史的大傑作。「東京サイド」と「宇宙サイド」に分かれ、この粋と勢いは、凡百のニューミュージックとやらを吹き飛ばすエネルギーに満ちていた。

1)東京ワッショイ
・この表題曲のKO力は絶対的なものが有る。甘ったれたことを言う奴、我が侭な奴、とかを見ると口ずさんでしまう、特に東京に住む者にとって永遠不滅の名作だ。
 「甘ったれるなよ 文句を言うなよ 嫌なら出てけよ 俺はすすす好きさ東京 我が街おお我が友 トトト東京・東京・東京」

2)不滅の男
・エンケンの精神の強靭さ、常人離れした自己顕示欲と自意識過剰?が遺憾なく発揮された、健常な精神の下では歌えない爆裂歌である。
 「『頑張れよ』なんて言うんじゃないよ 俺はいつでも最高なのさ ああ 俺は不滅の男」「そう俺は本当に馬鹿野郎だ だから分かるかい『天才』なんだ」

3)続東京ワッショイ
・これまた、東京ワッショイとセットで、「宇宙都市東京」をズバリ言い当てた名曲。
 「右も左も自意識過剰のヒステリー 危ないぜ気を付けな 東京だよおっかさん」に大きく肯き、「モスラ寄り添う東京タワー 霧のハレルヤ国会議事堂」に笑ってしまう。

 

3.シルバースター(‘75年作品)
・第3位は、「反則」批判は覚悟のうえで、この、単独アルバムとしても美しい不思議な魔力のベスト盤を推したい。「エンケンに駄作なし」と言いつつも、「アルバム内にムラはある<苦笑>」気もして、デビューから「嘆きのウクレレ」「KENJI」など74年までのアルバムから名曲を選び抜いた、これぞ必殺仕掛盤。・もちろん、現在までのエンケンを通して聴く場合には「純音楽一代」(04年発売の最新ベストアルバム)もお奨めだ。

1)ハロー・グッバイ
・「T’sセレクション」にも選んだ、傑作ロック作。この歌の悲壮さ、美しさ、純粋さ、が分からん奴にロックを聴く資格、恋愛する価値は無い!?
 「君はまだあいつの眼の中にある 見たこともないノルウェーの青い海の底に 静かに身を横たえてるのかい」「まだもし僕のためじゃないなら 死んでしまえ魚に食われ 差し込む月の光に食われて 砂に食われて じゃ ハロー・グッバイ」鈴木茂のギターが痙攣躍動する。

2)踊ろよベイビー
・ド派手で満天のエナジーに満ちた宇宙的大ラブソング。このハジケ方、この演奏力(高中正義編曲)まで含めて、地球外生命力に満ち溢れている。
  「今夜は君と 踊ろよベイビー」「Oh baby 僕のロケットに愛を込めて 君の宇宙の果てまで・・・」サウンドは聴かなきゃ分からないのが残念。

3)ほんとだよ
・最初に作った、デビュー曲である。この怪しさ、この静寂、この信憑性は、彼が本物の芸術家であることを最初から示していた、とも思える。知る人ぞ知る1968年京都フォーク・キャンプ辺りにおける(雅楽とインド音楽の影響まで感じられる)演奏振りから、エンケンが他のフォーク歌手とは次元を異にしていたことは自明である。
 「夜の静けさの中で あまりに静か過ぎて 木々の梢も泣いているのさ 僕と同じさ ほんとだよ」

 

4.夢よ叫べ(‘96年作品)
 エンケン16年ぶりのオリジナル新録作品で、ファンの心の奥底に響き、万人の涙腺を緩めた「近代の傑作」。これ以降コンスタントな活動が続いている。早川義夫氏の復活にも刺激・影響を受けたものと思われる。

1)夢よ叫べ
・静かで壮大なバラード作品。この世に絶望する失意の友人に向けて歌われた形を取りながら、自分自身や同世代人、ファンの若者にも、魂の真髄からの応援歌を歌い上げているように思える。自身が「紅白で歌う」と誓う圧巻の絶唱歌。
 「お前がやらなきゃあの夢は 二度とは瞬かぬ ソウサ~ ソンナ~夢に負けるな友よ 夢~よ叫べーーーーー!!!」・先日カラオケで初めて歌ったら、家人に1番の途中で演奏停止されてしまった・・・。何故だ!

2)裸の大宇宙
・「今は亡き岡本太郎氏に捧ぐ」と銘打たれた、アーティスト魂を歌いあげる歌。歌詞カードには、万博公園の太陽の塔とエンケンの2ショット。既成芸術の枠を超えた巨人のみが、同じ巨人の偉大さを真に理解するのか?
 「そうしてその君は生きることに純真で 気高く美しく 君だけのリズムを刻み続けているよ」「だから宇宙を切り裂け 宇宙を叩け 宇宙を切り裂き叩け」「アア君こそは 裸の大宇宙~だ~」

3)おでこにキッス
・動と静、強と弱、激と穏の後者を代表する、優しく可愛らしいラブソングの小品。福山雅治がカバーしたことで、ちっとは知られる?か。
 「涙を拭いて 笑ってご覧よ そしたら君の おでこにキッス♪」

 

5.幾つになっても甘かあネェ!(‘02年作品)
 ここ数年のアルバムは、最新作「にゃあ!」に至るまでどれも甲乙付け難い、というか、安定状態にある。ハードロックと囁きソング、そしてサッカー応援歌まで、と、常人には理解し難い振幅で、普通ならアルバムとしての統一感が損なわれるところだが、そこはもう、エンケン大宇宙なので、何が飛び出そうが、黙って聴くしかないのだ!!

1)純音楽の道
・これぞ、文字通り、エンケンの音楽に対する思いを、キッパリ・ハッキリ歌い上げた決意表明歌=メッセージソング(以下に長めに引用)である。
・「宇宙開闢来150億年と 躍動するこの俺のリズムで この『純音楽の道』を のたうち廻って来たんだ」「これからもそして瞬く間の99歳は史上最長寿の純音楽家となるその日まで あるいは演奏中に息絶えるその瞬間まで 日本人ぶらず 外人ぶらず 素朴ぶらず 反体制ぶらず 詩人ぶらず」「ジャズやロックやブルーズや フォークやクラシックやテクノや演歌やラップやパンク等々と 枠に囚われず」「ただひたすらに 俺の心に真直ぐな音と言葉で 好きだからこそ孤独で厳しい この『純音楽の道』を一人行くよ~!!」

2)幾つになっても甘かあネェ!
・これまた正しくタイトル通り。そこまで頑張らなくても、と言いたくなるような、エンケン還暦目前の強靭な意向表明である。
・「なんだ坂こんな坂 シュポポポポポォ 強がりいっぱい」「今日を逃げたら明日は来ない もひとつ魂焼き入れろ」「ああ!幾つになっても ああ!甘かあネェ!アアアアああ!甘かあネェ!」

3)史上最長寿のロックンローラー
・こんな歌ばかり聴いていると、こっちがくたばってしまいそう<苦笑>だが、ココまで来たら、99歳のエンケンが歌い叫ぶ10分近いこの大作(ライブだとどれだけかかるか怖い)に立ち向かおう。
・「夢も希望も無い奴も みんな束になってやって来い さすればこのエレキギターをそのムカツク胸に刺し違え 五臓六腑を引き摺り出して引っくり返しては甲羅干し」「一人二人は面倒じゃあ~ 日本全国束になってやって来い! さあさあ!どうじゃ!これでもどうじゃあ!」

 あー、疲れた。けれどもエンケンが存命中に、その公約(願望?)どおり、紅白歌合戦のトリで「夢よ叫べ」を絶唱する大晦日を待ち望んでいる。

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 次回は、日本ロックの始祖=「早川義夫」に立ち戻るか、はたまたそれに比べれば無名の新人?=「オクノ修」に飛びたい、と思っている。