God・神様・王様対決:新作アルバム比較

2018年7~9の3か月間に、フォーク・ロックの「God=ボブ・ディラン」、「神様=岡林信康」、「王様=吉田拓郎」が揃って新作アルバムを出した。
 ――ディランについては、元祖神様と書こうかと思ったり、神様より偉い称号を探したが、尊師とか言うと某宗教みたいだし、、、で、単純に英語にした。

このタイミングは偶然の一致には違いないが、奇遇、というか、それこそ神様でも居るのかな?と思ってしまう。
 しかも、アルバムのコンセプトが共通している。全くの新作という訳ではなく、過去の音源の整理、ないし新録音で、いわばベストアルバムである。

 とはいえ、仕立て方はそれぞれに違い、興味深いものがある。以下、各アルバムの概要を紹介し、感想・評価を記してみたい。
 ――3人とも偉人であり、全部名曲だ。
 ――よって、若輩の私が解説するなどおこがましい、ことは承知のうえで。

1.ボブ・ディラン「ライヴ:1962-1966~追憶のレア・パフォーマンス」(2018.7.18発売)
(1)概要
・フジロックへの「来日記念盤」として、日本主導で、1962~1966の未発表ライブ音源(一部は既発)を、「追憶のレア・パフォーマンス」と称して発売したもの。
 ――それにしても、苗場まで聴きに行った方、気力・体力ともに偉い!
・日本盤のみ、例のロンドンでの有名な(ユダ!)ド迫力「ライク・ア・ローリング・ストーン」が収められている。

(2)感想・評価
・1962~1966年と言えば、正にフォークからロックへの転換&黄金期であり、フォーク・ロックが誕生した神がかった革命期である。
・私は常々、1964.8.28、NYのホテルでディランとビートルズが邂逅したことがフォーク・ロックの歴史上最重要な出来事であり、この夜に相互の化学反応で詩と曲が混じりあった、と喧伝している。
・その、正に脂が乗っていくディランのノーベル賞に相応しい奇跡的な歩みが味わえる訳である。

・従って、名曲・名演奏だらけであり、下手な評論をするとバチが当たりそうだ。しかし、正直に言うと、どの曲も(音源マニアは別なのだろうが)「あれッ、この演奏聴いたことがある」との既聴感が拭えない。
・例えばワシントン大行進でのジョーン・バエズとのデュエットとかも、「ノー・ディレクション・ホーム」で映像として観ているので、感慨は薄まってしまう感は否めない。

・さらには、全30曲中、(フォーク・)ロックは僅か6曲で、フォークに偏り過ぎているように感じる。2枚組だから、半々に出来なかったのだろうか?
・本盤は「フォークの神様」としてのディランを聴きたい方にお奨めである。ギターもハーモニカも上手く、変な声での歌唱にも唯一無二の味がある。

2.岡林信康「森羅十二象」(2018.9.5発売)
(1)概要
・デビュー50周年を記念して、代表的な名曲を再演。
・何と言ってもバック(演奏陣)が、京都フィルハーモニー室内合奏団、坂崎幸之助、サンボマスター、矢野顕子、山下洋輔スペシャルカルテットと、超豪華なのが特徴。
・「森羅十二象」とのアルバム名が意味深で魅力的。

(2)感想・評価
・坂崎との純粋なフォーク、特に「26ばんめの秋」が大変味わい深い。
・そしてロック。はっぴいえんどに代えてサンボマスターを従えた「今日をこえて」が白眉。(流石にリハはしたのだろうが)本当に「一発録り」したなら凄い。
・サンボの3人は、岡林の熱烈なファンであり、そのリスペクトぶりが岡林再評価の一因となったので、感慨深いタッグでもある。
・坂崎幸之助も、今やフォーク界の最高有識者兼何でも演奏者として、このアルバムへの参加は栄誉だろう(中川イサトや平野融の代打?)。

・正直、クラシックからフォーク・パンクロック・ジャズまでが混じっているので、多彩というか・・・、ご本人は「大谷翔平だ」と宣うているが、通しで聴く時やや辛い面もある。
・クラシックやジャズは(演奏歴があるとはいえ)目新しくて、かつネームバリューもある(意外に「有名人コンプレックス」?)、という趣向かもしれないが、正直、岡林にはフォークとロック(合わせてフォーク・ロック)が似合う。それだけに絞った方が良かったのではないか(どうせ入れるなら細野晴臣・松本隆・御歌囃子とか)?という感も否めない。

・しかし、50周年という祝祭に、ジャンルを超えて日本を代表する(世界的な?)ミュージシャンが集まったということは、神様の人脈・人望であり、誠に目出度い。
・一時期は、消息を絶っていた感じの岡林が、なんだかんだ言いながら50年も歌い続け、72歳になっても全国ツアー(と言っても7か所9回だが)に出る、というのは神の暁光であろう。

・そして、今回驚いたのは、大半(フォーク・ロック・ジャズ)の録音・ミックスとマスタリングが、私の家の近所(吉祥寺)で行われていたこと(先ほど現地を確認)。神様とすれ違ったかもしれない。早く言ってよぉ~<笑>。

3.吉田拓郎「From T」(2018.8.29発売)
・過去の自分の曲の中から好きなものを選んで、好きな順に並べた、というプレイリストが2枚。毎日寝る前に聞いているというから、意外にナルシストか?
・もう1枚が「Tからの贈り物」という名の特別付録盤で、自室(主に逗子)で製作したデモテープ。
・いずれも発売まで内容(曲目)が明かされない、という強気?企画盤。

(2)感想・評価
・プレイリストの2枚は、名曲だらけというか、順当な選曲で、ほぼ違和感はない。最近までの拓郎を知る身には意外性に欠けるし、「あの頃が懐かしい」派ファンには馴染めないという言い方もできるか?
・「結婚しようよ」「旅の宿」「落陽」「祭りのあと」など、パブリックイメージを形成している代表曲が入っていないのは良い。そこが既発の凡百のベストアルバムと違い、真のファンであることが問われる。

・「ああ、今の拓郎はこれらの曲が好きなんだな」ということを確認できる。
・音も、ごく自然に鳴って、オリジナルアルバム(音圧等)が違うことを感じさせない。
・人生を肯定的にとらえた明るめの歌が多く、全体を貫くのは「人生という名の旅を続けよう」という信念だ。何故この曲順なのか?については、正直良く分からない感も<苦笑>。

・このアルバムで嬉しいことは2点。全曲に拓郎自身のライナーノーツが付いていることと、宅録の3枚目(プレゼント)が凄く良いこと。
・ライナーノーツには、作詞家岡本おさみや、安井かずみ、演奏陣の鈴木茂・青山徹・高中正義・松任谷正隆などの思い出話が出て来るし、何より拓郎が音やアレンジ、アドリブを含む演奏に深く凝っていることが分かる。

・また、冒頭の以下の記述が興味深い。
「詞を書くという時に、僕の場合すべてが事実に基づいているような印象があるらしいが、それは全くの間違いである」「想像したり妄想したり頭の中にストーリーを描くことが好きな少年だった」
・この点「自分の心の奥底から湧き上がってくるものしか歌に出来ない。僕には商品としての作品を作る才能は無い」という岡林との違いが鮮明だ。

・で、核心はデモテープ。1曲目の「淋しき街」に久々に心が震えた。私のデモテープのイメージは、ギターかピアノでサラッと歌う、というものだったが、これは、このままアルバムにしても通用するほどに完成度が高い。
・拓郎の音楽のセンス・スキルが、日本のフォーク勢を超越していることが分かる。
・流石に同じスタイルのシンプルなコンピュータ(無機質)音楽が続くので、多少飽きてくる感はあるものの、これは本当に「Tから長年のファンへの贈り物」だわ。

【最後に】
・3人とも、あるいはいずれか、は、今回の作品が「遺作」となる可能性がある。生命的に亡くならないまでも、皆70代となった今、オリジナルアルバムを作るようなエネルギーが残っているかは、正直疑わしい。

・そして、3人とも、ともすれば「フォークの神様」呼ばわりされるレジェンドとなったが、今回3作品を聴いて、全員が「フォークなんて嫌いだ!」と言っていたことを想う時、感慨深いものがある・・・、と思いませんか?!